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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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自分たちの夕飯は今日の報告とかをしながら、3人でいただく。
今は、この時間が一番幸せだ。
最初の頃は夕飯の時間になると呼ばれるだけだったけど、最近では料理をやらせてもらえるようになった。

「それにしても、空流くんには驚いた。まさか料理が出来るなんて思わなかったよ」
今日の夕飯は僕が作った。もちろん僕たちが食べるだけの分。
お客様の夕飯で使った残り物が多いから、それに付け合わせて何かを作るだけだ。
「どこかでお料理を習ったの?」
そう聞く朱音さんは、10代のころから結婚するまでずっと料理の勉強をしていた料理のエキスパート。でも、僕にそんなことができたわけがない。
「小さい頃から家事は僕の仕事でしたから」
この答えに、二人とも不思議そうな顔をする。
「母子家庭で、母が働きに出てたので」
少し事情を説明する。
「あら、そうなの。お母様は今は・・?」
「他界しました。4ヶ月くらい前に」
二人が驚きの表情を隠せないで顔を見合わせる。
「それは、悪いことをきいたな」
「そうね、ごめんなさい」
そんなことを言われるとこっちが申し訳ない。
「いえ、でも何だか、すごく昔の事のような気がします」
まだ4ヶ月しか経ってないなんて嘘みたい。
「お母様がなくなったあとはどうしていたの?」
千晴さんが、朱音、と名前を呼んだ。
朱音さんが僕にそう聞くのを制するみたいに。
「あ、ごめんなさい」
口を押さえて朱音さんが謝った。
その状況にはっとする。
「もしかして、俊弥さんから何か聞いたんですか?」
朱音さんが謝ったのは、僕にとってその4ヶ月がどんなものだったか知ってるから…?
「いや、俊弥は何も言ってない。人の事情を軽くしゃべる奴じゃないよ。ただ、空流くんの事はあまり詮索しないでやってくれ、って言われたんだ」
「あなた…」
「空流くん、今じゃなくてもいいから、君がこんな年齢で働かなければならない理由を教えてくれたら嬉しいと思う」
千晴さんがそう言った。

千晴さんと朱音さんには知る権利がある。
いくら友達の紹介とはいえこんな素性のわからない16歳を雇ってくれているんだから。

「聞いたら多分、不快になると思います。それでも大丈夫ですか?」
「今じゃなくてもいいのよ、空流くんが私たちに話してもいいって思ってくれたらでいいの。無理はしないで」
「無理じゃないです。でも、自分から話すことじゃないから言わなかっただけなんです。お話します」
4ヶ月分の傷は癒えた。
けれども、傷を癒してくれたあの人を思い出すとまた一つ、新しい傷がうずく。

そうして、話し出した。
公立高校の入学手続きの日に掛かってきた一本の電話。
その電話がすべての状況を変え、伯母の家へとひきとられたこと。
声が出なくなって、そこで体験した極寒と灼熱の地獄。
死ぬ思いで逃げた。倒れたところを助けてくれたのは、俊弥さんのお友達ですごくお金持ちな人だった。
それでも事情があって、そこにはいられなくなったから俊弥さんに頼んで、ここで働かせてもらってる。

そんなことを話してたら、いつのまにか夜は更けていった。
明日も朝早いのに、申し訳ない時間になってる。

話をおえたけど、誠司さんのことは詳しく話せなかった。
なんであの家を出ることになってしまったのかは、どうしてもうまく言えなかった。

千晴さんと朱音さんは顔を見合わせる。
何も言えないようだった。
「夕飯の片付けはやっておくから、お風呂を使っておいで」
千晴さんが一言、そう言った。
素直に、頷いた。