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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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「いらっしゃいませ」
また、入り口の係の人が扉をあけてくれる店。
そして奥から誠司の接客のための人が出てくる。
もしかして誠司は、こういう店しか知らないのではないかと疑い始めてしまう。
・・・Tシャツが1枚千円で売ってるとか教えてあげたら純粋にビックリしそうだな・・・
そんなことを考えて、ちょっと笑ってしまった。
「空流、このあたりのものがさっきの服には合うと思うんですが、気に入ったものはありますか?」
目の前に並んでいるのは、黒いぴかぴかの靴。口が裂けても言えないけれど、どれも同じように見える。価値が高すぎるものの機微なんて分からない。
「何色の靴をご所望でしょうか?」
お店の人が話しかけてきたから、これには答えようと頑張った。
「・・・えっとスーツにあわせたくて、スーツが黒・・・に近い灰色みたいな色なんですけど・・・」
どうにも言い表しようのないさっきの礼服の色。
それでもお店の人はちゃんと理解してくれて、試着用の椅子に座らされた。
「こちらなど、いかがでしょう?」
そう言って持ってきてくれた3足の靴。
「よろしければサイズをお出しいたしますが」
「それでは、26.0をお願いします」
店の人の言葉には誠司が応じた。
「お待たせいたしました、どうぞ」
3種類の靴がそれぞれ目の前に置かれた。
こんな至れり尽くせりな接客には慣れてないから、落ち着かない。
「空流、はいてみてください」
「はい・・・」
誠司に言われ、一足目をはいてみた。
「・・・すごい」
「何がです?」
「スーツの色、上手く説明できなかったのに、この靴すごくスーツにぴったり合いそうな気がします」
最初は誠司さんに向かって、後半はお店の人に向かってそういった。
「ありがとうございます、是非他のもはいてみてください」
2足目をはいているときには、これはさきほどのよりも少しカジュアルな感じです、とか3足目は逆にフォーマルな感じが強いとか、そういうのを説明してくれた。
「すごいんですね、僕はそういうこと全然わからなくて恥ずかしくなります」
「いいんですよ。お客様が詳しすぎては、私の仕事がなくなってしまいますから」
「説明聞いてるだけで、すごく勉強になります」
お店の人が、こんなに色々なことを教えてくれる人だなんて今までぜんぜん知らなかった。高級な店の人なんてツンと済ましているようなイメージさえあった。

「・・なので、一番のお勧めはこちらですね」
店の人がさしたのは、一番最初に履いてみた靴。
「誠司さん、これでもいいですか?」
「ええ、もちろん」
そう応じる誠司の顔にはいつもどおりの笑みが浮かんでいたけれど、その顔が本心ではないような気がして、気になった。

荷物を持って車へと戻ると誠司が無言でエンジンをかけた。
「・・・誠司さん?」
「今日はもう、帰りましょう」
車を発進させて、もと来た道を戻っていく。
原因はぜんぜんわからないけれど、なんとなく重苦しい空気に帰り道はずっと黙っていた。

まだ出かけてから少ししか経ってないのに、一等地に建つ高層マンションへと帰ってきた。
未だにエレベーターの感覚にはなれないけれど、そんなことは今気にしている場合じゃない。
「・・・誠司さん、何か気になることありました?」
「いえ」
誠司は、一つ問いかければ三つくらい答えが返ってくる人。
一つ問いかけて、それだけしか返事が返ってこないのがおかしい。しかも、さっきからずっとこの調子だ。

・・・やっぱり、なんか気に入らないことがあったのかなあ。
お店の人の対応も丁寧だったし、車もそんな混んでなかったし。
・・・やっぱり原因は自分?
でも思い当たる節がない。
ちゃんともらったものにはお礼を言ってるし・・・。