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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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誠司の運転する車で街へ出る。
東京に住んでいるといっても、高校へ出るまでは電車にのることなどほとんどなかったから普段はテレビの中でしか見ることができない光景が窓の外に広がっていた。
「うわぁ・・・人がいっぱい」
いま空流と誠司が住む場所も東京の都心近くだが、そこにはにぎやかな雰囲気は全くない。
「こういうところに来るのは、初めてですか?」
「たぶん、そうです」
その答えを聞いて気をよくしたのか、車のスピードが少し上がった気がした。
空流は気付いていないが、彼らが乗っているのは周りのドライバーが近寄りたくないと思うほどの高級車である。

「まず、洋服から見ましょうか」
車が地下の駐車場へと入っていく。車から降りて、建物の中に入っていくとたどり着いたのはそのデパートの入り口にある店。大人なら誰もが知る有名ブランド店であるが、そういうものに興味のない空流がその店の名を知るはずもない。
それでも、表通りにあるのにもかかわらず、場所が広いということ、店員は多いのに客は少なくて静か、その上店頭に出されている商品数が少ない様子から高級品店なんだろうと察しはつく。
・・・こんな高級なお店に入らなくてもいいのに。
ちょっと頬をひきつらせてそう思うが、誠司にとってはこれが当たり前なのだろうと諦める。できるだけ、目立たないようにしながら誠司の買い物が終るのを待つつもりだった。

「いらっしゃいませ」
入り口係の人がドアを開けてくれると、接客の店員が奥から出てくる。
「鷹島さま!」
見るからに上品そうな中年の男性は、誠司と顔見知りのようだった。
「こんにちは。いつもお世話になってます」
「こちらこそいつもありがとうございます。いらっしゃるご予定とは知らず、駐車場まで迎えの者もよこさず申し訳ありません」
「今日は普通に買い物をしにきただけですので気になさらないでください」
「恐縮です。本日は何をご入用ですか?」
異次元のような会話に空流が誠司の後ろへとさりげなく一歩下がるが、再び前へ出ざるをえなくなった。
「この子に何かみたててもらえますか、礼服が一着あってもいいと思いまして」
いつの間に礼服の買い物になったのかと誠司をみるが、空流の視線は届かない。
「誠司さん、なんで・・・?」
「前にパーティーに行ってみたいと言ったことがあったでしょう?それを思い出したので」
確かに、言った覚えがあったが・・・まだ出会いたてのころの話で、誠司の言うパーティーがどんなものかも理解できないころだった。理解した今は、行きたいなんて恐れ多いことは考えてない。
「それでは、サイズをお計りします。こちらへどうぞ」
抗議する暇もなく、店の人に呼ばれ、誠司にも背中を押された。

体にメジャーを当てられながら、店の人が話しかけてくる。
「こういった買い物は慣れませんか?」
その口調は誠司に話しかけるときとはまた少し違って、親しみやすい。
「はい、サイズを測ってもらうのとかも初めてで。慣れてなくてすみません」
「大丈夫ですよ、リラックスしててください。手を横に広げてもらえますか?」
言うとおりに動いて、採寸は進む。
「普通お客様にこんなことを言ってはいけないのですが、私の生まれは鷹島様のように立派でなく、一般中流家庭です。こういった対応の仕方を身につけたのは就職してからで、大学までは普通の貧乏学生でしたよ」
ハンバーガーを食べるのは日常茶飯事だったし、服はセールのときくらいにしか買いに行かなかった、と教えてくれた。
そっちの生活のほうが空流にとってはなじみが深いもので、話が盛り上がる。
その感じは誠司や俊弥と話していても味わえないものだ。あの人たちは日本の物価をちょっと勘違いしているんじゃないかと思うこともある。
だから、こういう誠司たちが住む世界にも普通の人がいることを知って、安心してしまった。
採寸の間に親しくなったということもあってか、服を選ぶときにも熱心にアドバイスをくれる。空流のことを思い、着やすいものや管理が楽なものを中心に薦めてきたようだ。誠司の意見を聞きつつも、やはり着やすかったり管理が楽だということは魅力的で店員の意見を中心に聞いてしまう。
服を選び終わって店を出るころには、すっかり仲良くなってしまっていた。
「ありがとうございました。駐車場までお運びしましょうか?」
店先で紙袋に入れられたものを店員さんが持ち上げる。
「いいえ、けっこうです」
誠司が直接袋を受け取り、店を出た。
その声が少し不機嫌にゆがんでると思ったのは、多分気のせいじゃない。
誠司が買ってくれれいるのに、自分で買い物してるみたいにはしゃいでしまって、ちょっとあつかましかったかと不安に思う空流である。
「あの、つい選ぶのに夢中になっちゃって・・・すみません」
その言葉に振り向いた誠司の笑顔は、いつもどおりで少し安心した。
「ああ、あと服には靴も合わせないといけませんね」
まだ何か買ってくれる気なのかと頬がひきつる空流だったが、結局何も言わずに誠司の後をついていった。下手に断ったりせずに、そうすることが一番目の前の人を喜ばせることを知ってるから。