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大人のための異文童話集2

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北風はしぶしぶ承知して、北風と太陽は、女の子が暖かくなるように労することになりました。
そして彼女が暖かくなったかどうか、ふたりが見て取れる決めごととして、太陽は言いました。
「それでは北風さん、あの女の子が着ているジャケットを脱いだら、ということで…。」
そう言い終わると太陽は、これでもかと言うほど、サンサンと輝きはじめたのです。
北風はというと、相変わらず何もしないで、ただじっと女の子を見つめているだけでした。
「何だか急に暑くなって来たよ。」
「これってなぁに? なんだか夏の陽射しとは違うみたい。」
あれほど寒がっていた女の子は、今度は暑くなったのでしょう。
そう言って、ジャケットの襟を戻して前のボタンを外し、今にもそのジャケットを脱ごうとしています。

その時でした。
北風は軽く、そして優しく「フッー」と風を吹いたのです。
「ああ、気持ちがいい…、冷たくもなく、寒くもない風。」
女の子は落ち着いたように、手を掛けていたジャケットから手を外したのです。
それを見ていた太陽は、北風には負けじと、もっとサンサンと照らすのでした。
すると見る見る間に、池の水が水蒸気となって立ち上り、道脇に咲いていた花たちも、グッタりとしおれたのです。
女の子の顔はもう真っ赤になって、額からは玉のような汗が、次から次へと吹き出して来ます。
「いったいどうしたの?」
「もう暑くてたまらない、立っていられないよ。」
そう言うと、道端に立っていた少し背の高い木の下までヨロヨロと歩いていき、木を背にして倒れ込んだのです。
「暑くて死にそうだよぉ、私はただ、夏の陽射しが恋しかっただけなのに…。」
「こんなのイヤだよ、どうして私がこんな目に…。」
そこまで呟くと、女の子は木陰で倒れてしまいました。
「あれ? おかしいなぁ。」
「あの子どうしたのでしょう? 私はこんなにも、暖かくしてあげているのに…。」
それまで、これでもかというほど勢い良く、サンサンと照らしていた太陽が言いました。

そしてこう呟いたのです。
「それほど暑ければ、さっさとジャケットを脱いでしまえば、それでラクになるだろうに…。」
それを聞いていた北風が言いました。
「太陽さん。人というのはね、彼等が言っているほどには、何でも思ったようにはできないものなのですよ。」
「それでは今度は、私が女の子の着ているあのジャケットを、脱がせてみましょう。」
それまでただ一度、軽く風を吹いただけの北風は言いました。
「私がこれほどまでやってダメなものを…。今まで何もしないで、何をいまさら。」
太陽は、心の中でそう思いながら「ふっ」と笑って、これまで強めていた力を抜いたのでした。

そんな太陽の心の中を知ってか知らないでか…。
北風はゆっくりと、そして小さく小さく、更に柔らかく、そっと風を吹くのでした。
何度も何度もそうやって、北風は風を送り続けました。
するとどうでしょう。
それまで倒れて唸っていた女の子の額からは、見る見る汗が引いていきます。
そして眉を潜め、口で息をしていた表情も緩やかになっていました。
道端の草花も元気を回復したように、徐々に起き上がっています。
そして女の子は時折笑顔を見せるのでした。

どうやら女の子は夢を見ているようでした。
そうやって北風は、何度かそれを繰り返して、しばらくじっと…また女の子を眺めているのでした。
「やっぱりダメじゃないか…。」
太陽はひとりごとのように、そうイヤ味な言葉をいって、また自分が照らしてやろうと思った時です。
女の子の瞳がパチッと開いて、上半身をムクッと起こしたのです。
そのとき見た女の子の顔はというと、とても心地よい表情をしていました。