小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

キャンバスの中の遊戯

INDEX|4ページ/28ページ|

次のページ前のページ
 

 秘密を共有している共犯者とでも言えば良いのだろうか。それとも、お互いの姿に惹かれながらも、同じくらい憎んでいるとでも言えば良いのだろうか。
「ふうん」
 秋は小さく頷くと、美幸の隣に並んだ。
「学校も、一緒なの?」
「そう。小学校から一緒なの。家も近いしね」
「ふーん……」
 秋はまた頷くと、美幸を真似てか、本の背表紙を追う。美幸は面白そうな本の題名が引っ掛かり、手前にその本を抜き出した。
「でも」
 その時、不意に秋がそう呟いたので、美幸は全てを引き出す前にその手を止めた。ゆっくりと、静かに秋へと視線を向ける。
 秋の声は、その時妙にひやりとしていた。彼はその整った顔立ちに、そつなく穏やかな笑みを浮かべている。
「なんか、違和感があるんだよねぇ」
 そうして彼が言った言葉に、美幸は手に取りかけていた本を取り落としそうになった。ひやりとした言葉に強張っていた体を解除させ、宙に浮いている本を取る。
 どうにか元の自分を取り戻そうと、美幸はその場で頭を回転させた。そして、普段と変わらない笑みをどうにか思い出して浮かべる。
「……どういうこと?」
「……ううん、何でもない」
 秋は何かを言いかけていたが、小さく首を横に振って、背表紙にかけていた指を外した。
「放課後が楽しみだな」
 秋は小さく呟くと、ふらり、と文庫本がある棚から外れて歩いていく。
 美幸は秋の背中を見つめながら、ぼんやりと頭の中で茜の姿を思い浮かべていた。

 二人の関係は、確かにただの幼馴染ではない。
 この学校では、自分は小林美幸という名前だが、戸籍上は海道茜という名前を持っている。
 学校では「小林さん」とか「美幸」とか呼ばれているが、家の表札は「海道」だし、家の人は美幸を「茜」と呼んでいる。
 幼馴染の茜とは、家が隣同士ということもあって、毎日一緒に過ごしていた。小学校も中学校も、そして今も。
 ただ、今の二人の性格は、中学校までは丁度正反対だった。いつも明るく、そつなく人間関係をこなす美幸と違って、茜は激しい人見知りだったのだ。本を読むのが好きな事もあって、いつも窓際で本を読んでいた。
 そして、とある日の帰り道、ふとした会話から、この秘密を作り上げたのだ。
(――いいなあ、茜は)
(何が?)
(私も、茜みたいに、皆と話してみたい)
 その日はやけに夕焼けが赤かったのを覚えている。
作品名:キャンバスの中の遊戯 作家名:志水