小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

キャンバスの中の遊戯

INDEX|3ページ/28ページ|

次のページ前のページ
 

 やった、部員ゲット、と喜んでいる横で、美幸はどこか複雑な気持ちを抱えていた。茜は嬉しそうに飛び跳ねているが、その底には、複雑な気持ちを抱えているのだ。目が無理矢理細められている。
 美幸はただ黙って、二人の会話に耳を傾けていた。



 背中よりずっと遠くに、生徒達の賑やかな声が響いてくる。続いて身体一杯に、静寂が押し寄せてくる。
 第一校舎の廊下の一番奥、突き当たりに図書室はあった。
 もともと図書室は静かな空間なのが普通だが、この学校の図書室は更に静かだった。まるで学校から隔絶された、違う空間なように感じてしまう事がある。
「静かだね」
 秋もそれを感じてか、美幸の斜め後ろでぽつりと呟いた。美幸はそれに小さく頷くことで答えを返す。
 扉に手を掛け、横に引く。がらり、と音を立てて扉は開いた。そしてむわ、と乾いた本の匂いが一杯に広がる。
 聞こえるのは、ぶうんという、モニターの僅かな音と、時々聞こえるざわめき声だ。
昼休みはあまり生徒は利用しない。皆、腹ごしらえをするのに必死だからだ。
 放課後は受験生で一杯になってしまうこの部屋の、この静寂の時間が美幸は好きだった。返却ボックスに本を返すと、彼女はいつものように、文庫がきっちりと並べられている本棚へ向かう。
 秋はどうするのかと背中で探っていたが、すぐ後ろに足音を感じた。どうやらついてきているようだ。
 何か話をした方が良いのかと一瞬考えるが、すぐにその考えを打ち消す。どうせ聞かれていないのだから、わざわざ自分から話題を振る必要も無い。
 そうして、新しく借りようと考えている本の目星を付けていると、背中にいるらしい秋の声が響いた。
「いつも何の本を読んでるの?」
「……うーん……、特には決めてない、かな」
「そうなんだ」
「うん」
 ざわ、と本棚の横にある窓から、温い風が吹き込んできた。纏まっていないカーテンが、ふわりと揺れる。目に入るのは中途半端なクリーム色。
 ふわり、と鼻に、人に似た匂いがした。それはどこか乾いた匂いだった。
「海道さんとは、仲が良いんだね」
「そうねぇ……」
 美幸は本の背表紙を指で追いながら、小さく笑った。あ行、い行。そうして心の中で、そんな言葉なんかでは言い表せない、と呟く。
 そう、自分と茜の仲は、幼馴染、とか親友、とかでは到底言い表せない仲だと思う。
作品名:キャンバスの中の遊戯 作家名:志水