小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

キャンバスの中の遊戯

INDEX|27ページ/28ページ|

次のページ前のページ
 

 そんな二人に、斜め上から声が降ってきた。
「あ、丁度良い所に人手が。手伝ってくれないかな?」
 そこに立っていたのは、秋だった。彼はひとりでは持ち上げるのが難しい大きな作品を支えながら、苦笑を浮かべている。
「私、今休憩中です」
 そもそもどうして、ショッピングモールの下から上まで、忘れていた荷物を全速力で届けるという仕事が自分に回ってくるのだろうか。
 どう贔屓目に見ても、秋の方が体力があるに違いないのだ。確かに今男子達は設営に刈り出されているが、全員という訳では無い。秋なんかはその最たる人物だ。
「あとこれだけだからさ、お願いします」
 秋はへにゃ、と相好を崩しながらお願いする。
 きっと、この中性的な雰囲気のせいだ。彼はそこまで背が高くないから、この雰囲気を醸し出すと、美幸の方が力が強く見えるに違いない。
 何だか妙に悔しい。
「……はいはい」
 だが目の前で困っている秋のお願いをつっぱねるのも大人気ない。仕方なしに、美幸は運搬を手伝う。
「それにしても……、こんな大きい絵、誰が描いてたのよ」
 運ぶのが面倒じゃない、と愚痴を漏らした美幸に、何故か秋は引きつったような表情を見せた。その珍しい表情に、心の中で首を捻った美幸だったが、すぐにその疑問は氷解していた。
「面倒で悪かったな」
「せ、先生のでしたか……!」
 唐突に、絵を運ぶ美幸の横に、ふらりと先生が現れた。そうしてどこか低い声で呟く先生に、思わず美幸は叫び声を上げてしまう。
「いやー、まさか先生のとは思わなくて……」
 美幸は心の中でも外でも冷や汗をかきながら、何とか所定の位置に絵を運んだ。未だに絡んでくる先生を笑顔で交わしながら、周りにいた生徒達も巻き込んで絵を固定する。
 このような作業には慣れている事もあって、作業自体は手早く進んだ。
「よし、これで最後かな」
「今年も随分早くなったわね」
 秋がそう言いながら、リストにチェックを入れていく。その横に立って、それを見ていた美幸に、先生がどこか不思議そうな表情を向けてきた。
「――何か御用ですか?」
「いや、そうじゃ無いんだが……」
 先生は躊躇いがちにそう呟くと、美幸へ視線を向けた。そうして、どこか戸惑ったかのような表情を見せる。
「何か、変わったな」
「え?」
「いや、小林の雰囲気が。あー、そう言われれば、海道も最近何か変わったよな」
作品名:キャンバスの中の遊戯 作家名:志水