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キャンバスの中の遊戯

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 そう。例えどんなに、捻じ曲がってしまったこの道が気に入らなくても。それでも私達は進まなければならない。そこが、嫌になったら上から塗りつぶしてしまえる油絵と人生の違いなのだ、とも思う。
 私達は、この高校生という途方も無いキャンバスに、色を塗り続けなければならないのだ。
「そうね」
 美幸は寄りかかっていた棚から背を起こし、小さく笑う。画集から顔を上げ、きょとんと首を傾げる秋に、茜がいつもするように、にこりと笑みを浮かべてみせた。
「……やっぱり美幸さんは、赤いイメージなんだね」
 秋はそう言うと、小さく笑っていた。



 展覧会初日は休日ということもあって、展示させて貰うショッピングモールは賑やかだった。美幸はひとりその賑やかな輪を早足ですり抜け、人気のない階段へと向かう。そしてすう、と息を吸い込むと、階段を全速力で上がっていた。
 大抵こういった所のギャラリーは、上の階に設置されている。美幸が目的地に到着した時は、既に息が上がりきっていた。
 どうしてギャラリーは上の階にあるのだろう。そんな事を考えながら、下の階と違って、落ち着いた人の波を息を不自然に弾ませながら歩いていく。
「あ、美幸、お疲れ。それで全部?」
 展覧会の入り口に立っていた茜は、美幸の姿を見つけると小走りに走ってきた。そうして、美幸が抱えている荷物を受け取り、てきぱきと準備を進めていく。それを眺めつつ、美幸はどっかりと息を吐いていた。
「つ、疲れた……」
 やや大げさに息を吐きながら、受付の椅子に座り込む美幸。
「そこ、休憩場所じゃ無いけど」
 受付に置いてある小道具を手に取りながら、呆れたように茜が視線を向けてきた。美幸は斜め上に視線を向け、笑みを浮かべてみせる。
「ちょっとだけ、休憩させて……」
「美幸、それすごくオバサンっぽい」
 茜は呆れた視線のまま、しょうがないな、と小さく笑ってみせた。束の間、二人の間に沈黙が走る。
 あの日の帰り道、二人はぽつぽつと話をしながら帰った。内容は、主にこれからの事。
 そして、決めたのだ。私達は、私達の秘密を守りきろうと。
 きっと、どんなに足掻いたって、私達はお互いに焦がれる事から逃げることは出来ないのだから。
 今日、二人が交わす視線は、かつてのそれに酷似したものだ。
 憧れと、焦がれの先にある妬みと。そして――。
作品名:キャンバスの中の遊戯 作家名:志水