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キャンバスの中の遊戯

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「確かにちょっと怖かったかも。でも、その言葉は海道さんに言ってあげた方が良いと思うよ」
「茜、何か言ってた?」
「……落ち込んでた。美幸は悪くないのに、って」
「……そう」
 ざ、と窓の外に見えている木の緑が大きく揺れた。ざ、ざ、とそれは幾つもの音を持ってくる。秋はぱたりと画集を閉じて、自分の横に置いた。
「私達の秘密は、聞いた?」
「一応。あなたが本当は、『茜』さん、なんでしょ?」
「……うん」
「どうりで、違和感があった訳だ。……でも、家族とかには気づかれないの?」
「成績はほとんど同じなの」
「三者面談はとかは、どうしてるの?」
「兄だけには、事情を話してる」
「……なるほどね。それで普通に生活できている訳だ」
「そう。兄は呆れてる」
「……そりゃ、そうだろうね」
 秋は窓の外へと目をやると、小さく苦笑した。その眼は緑を見ているようで、遥か遠くを見ているようにも取れる。
「――三浦君は、鋭いのね」
「そうかな。でも鋭いと――余計な事にも気が付いてしまって、時々困る」
 彼は窓の外を見たまま、そう呟いた。
 余計な事とは何だろう。聞いてはいけない事は分かりきっていた。
 だが、今なら、聞いても許される。そんな気がした。寧ろ、聞くなら今しか無いのだろう。
「……それは、お姉さんとの事?」
 美幸がそう言った途端、秋はゆっくりと視線を室内へ戻していた。美幸へと無表情な眼差しを向ける。
 何度か見かけた、透明な眼差しに、思わず喉を鳴らしそうになった。
 きっと秋は、この眼で、全てを見抜いてしまうのだ。本人すらそれを憎む程に。そう感じたとき、秋は視線をずらして、少しだけ口の端を上げた。
 そこには、明らかな表情の変化があって、美幸は思わず目を見張る。
 今の秋は、明らかに男性の雰囲気を纏っていた。普段、女子達と話している方がしっくりくる秋では無く、そこにいたのは、ひとりの男としての、秋だった。
「……やっぱり、聞いた?」
「……――うん」
 美幸は秋の問いにしばらく間をおいて頷いた。声も、同じ秋から発されているのに、明らかに雰囲気が違っている。
 きっとこれが、本当の秋の姿なのだ。どうしてだか分からないが、美幸はそう感じていた。秋は隣の画集へと目を落としている。
「あの時も、俺が気がつかなければ良かったんだ。俺が色んな事に気が付かなければ、ね」
作品名:キャンバスの中の遊戯 作家名:志水