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キャンバスの中の遊戯

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 美幸が座る窓際の席の向こうでは、いつもの高校生達の生活が紡がれている。不自然な自然さの、奇妙な連帯関係。決められた集団生活。
 昼休み、お昼を食べ終わるまで、美幸の生活もいつも通りだった。
 がやがやと賑やかな声が教室の内外で響く中、美幸は鞄を覗き込む。そうしてしばらくがさごそと鞄の中身をかき回して、しまった、と小さく舌打ちした。
 今日は朝早く起きて来たから、うっかり、机の上に返す筈の本を忘れてきてしまったのだ。
 それでも、ひとまず茜の顔を見てから図書室に向かおうと、美幸はいつものように立ち上がって、廊下へと出た。
 足早に歩いて、茜のクラスを覗き込む。
「……あれ?」
 彼女のクラスには、いつもグループの中心となって話している茜の姿は無かった。女子のグループはあるのだが、茜の姿がぽっかりと抜け落ちているのだ。
「あのー、茜は?」
 茜がいなくても、そのグループには知り合いはいるので、ひとまず美幸は声を掛けてみる。喧騒の中で、グループの女子達は振り返った。美幸を見て、不思議そうな表情を浮かべる。
「あれ? 小林さんの所に行くって聞いたけど」
「そっか。……ありがと」
 美幸はひとまず礼を述べると、その場を離れた。そうして、図書室へ行く道とは違う階段を駆け下りていく。
 自分のクラスには戻らなかった。
 茜は美術室にいるのだ。それは勘でしか無かったが、その勘には、長年の経験がつり積もっている。
 喧騒が掌から零れ落ちていくように消えていく。言葉がぽろぽろと抜け落ちていく感覚を味わいながら、美術室への道を急いだ。
 軋んだ音を立てて、扉を開く。やはりその扉の向こうには、茜がいた。
 そして、茜の隣には、秋が立っている。
「あ、本当に来た」
 秋は美幸を見て、邪気の無い微笑を見せた。茜も遠慮ながら、笑いかけてくる。
「とりあえず、大体は完成したんだ」
 秋はおもむろにそう言うと、キャンバスへと目を移した。美幸は静かに扉を閉めて、その絵へと近付く。
「あんまり似せるのもあれだから、雰囲気だけ似せて描いて見たんだけど……」
 そして、秋はキャンバスの中央に座る、二人の女性を指差した。
「こっちが小林さんで、こっちが海道さん」
 彼が指差した先を見て――咄嗟には、言葉を出すことが出来なかった。
作品名:キャンバスの中の遊戯 作家名:志水