I hate a HERO!!
「ただいまー」
そう言いながら家の扉を開けた。
今日は恵登が用事があるのでいつもよりも帰ってくるのが早かった。
「おかえり、早かったね。ひーくん」
その声はいつも出迎える母親のものよりも低く、落ち着いた声だった。
「兄貴!帰ってたんだっ」
その声に嬉々として玄関で出迎えてくれた兄―宝田 召吾―に顔を向けた。
「今日はオフだったからね」
長身に長い黒髪を首筋のところで結んでいて、どちらかというと父親似のおっとりとした雰囲気で。
母親似の俺とはあまり似ていないけど、唯一母親に似ている少し垂れた目が一緒で昔から大好きな兄との唯一のお揃いが嬉しかったのを覚えている。
「母さんと鞠愛は?」
玄関からリビングに場所を変えて二人で日本茶を飲みながら話し始めた。
「でかけたよ。今日は僕が家にいるから留守番は任せて女の子だけの買い物に行くんだって」
「女の子ねぇ…母さんもいい年してるくせに」
「ははは、どうだろ。家の母さん年齢不詳だから」
笑顔で言う兄の言葉が笑えない。
「でも、兄貴が休みなんて珍しいね。いつも忙しいじゃん。その…」
「ヒール業でね」
そういう兄に苦笑するしかない。
“深闇”
今のヒール達の中でも断トツでお姉さま方からの人気を誇っている。長い黒髪を下ろし中国服ベースの衣装を身につけ寡黙に、冷徹にヒーローたちを追い詰めるヒール。それが…。
「色々と問題ごとがあってねぇ」
そう言ってのほほんと目の前でお茶飲んでる兄貴だったりする。
「………」
兄貴は我が家では珍しい常識人だ。でも、あの両親の方針にはもう早いうちに諦めたらしく何も言わず、自身も二年前に成人したのを期にヒールとしての活動を始めた。
「(そう思えば、ヒーローじゃなくあえてヒールに言ってのは兄貴のささやかな犯行かな?)」
「ひーくん?聞いてる」
「えっああっうん!も、問題ごとって何かあったの?」
「今それを話してたよ」
やんわりと指摘された。
「うっ…ごめん……」
「大丈夫だよ。気にしてないからしょんぼりしないで」
そうやって笑ってくれた。
「ごめん。で、なにがおこってんの?」
「うーん…実はね、ヒールの中で台本に無い過度な演出をする人がいるんだけど、最近それがひときわに目立つようになってね。ちょっと注意しただけなんだけど、それが癇に障ったらしくてね。向こうが怒っちゃったんだ」
「え?それって兄貴が悪くないじゃん」
「いやぁ、僕もちょっとカチンときて手出しちゃったから喧嘩両成敗なんだ」
普段温厚な兄貴が手ぇだすって…いったいそいつは何をやらかしたんだろうか…。
「それでね、たぶん向こうも謹慎してるから平気だと思うんだけどひーくん気をつけておいてね」
「え?俺?」
「うん。母さん達にも言ったんだけどね。その人、暴れたりするのが目的でヒール側に来たぐらいだから少し乱暴な人でね。僕に対する八つ当たりで家族を狙ったりなんてこと、やらないとも言い切れないから」
………なんて迷惑な奴だろう。
「ごめんね。ひーくん」
「え?」
「ひーくんはあまり“こっち側”に関わりたくないのに面倒事を持ちこんでしまって」
そう言って頭を下げた。
「えっ?いいよ!そんな…兄貴のせいじゃないんだし、それにまだソイツが動くとは限んないんだろ?起こってもいないことを謝ることないよ」
急いで顔を上げさせてそう言えば、見てる方が和みそうな笑顔で「ありがとう」と兄貴は言った。
「しかし、本当に迷惑な奴だよな。兄貴が注意したってだけで、自己ちゅ―な奴。だいたい暴れるのが目的でヒールに入るとかなめてるよっヒールの人たちだって、自分たちが非難されるときもあるけどそれでも頑張ってるのに・・・」
言っていたら腹が立ってきて近くにあったクッションをボスンッと殴った。
「ひ―くんんは統一プログラムに反対なのにそう言ってくれるんだね」
「いや…だって、気に入らないのはプログラムで、ヒールとかヒーローの人は仕事なわけだし、別に悪いことしてるわけじゃないし…………やりたくはないけど」
ここは否定しておかなくては。
「うん。ひーくんは良い子だね」
そういって兄貴は頭をなでてきた。
「別に……たしたこと言ってないよ」
少し、照れた。
「ただいまー」
ちょうど話が終わったタイミングで鞠愛の声が元気よく玄関から聞こえた。
作品名:I hate a HERO!! 作家名:727