「蓮牙」2 源助とドール
鎌を杖にして源助は伸び上がった。
彼らが賞金稼ぎをやっているのには訳がある。二人は共通の目的のために組んでいるのだ。ほかの者と組むことなど考えられなかった。
「でもあいつはしばらく使い物にならねぇだろ」
蓮牙は源助が逃げれば逃げただけ刃先を進めてきた。
「おい、人をがらくた扱いすんのもたいがいにしとけよ」
煙草のフィルターをぎいっと噛み締めて、ドールが頭を擡げた。
拳銃を蓮牙に向ける。
軽口を叩いてはいたが、彼の左肩から鎖骨、肋骨の一部は砕けてバラバラになっていた。本当なら、激痛で、身体を動かすことはおろか声を出すのだってきつい状態のはずだ。
彼としては気絶寸前のぎりぎりの強がりだった。
「ドールっ、無茶すんなっ」
源助は鎌の柄で地面を突いて後ろへ飛び退いた。
最後の力を振り絞ってドールが発砲する。彼は、弾倉に残っていた弾を全部撃ち尽くしてがくんと頭を下ろした。
蓮牙の姿はまたゆらりと揺らめいて、瞬間移動したかのようにドールの脇に現れた。
剣を持つ手を振り上げる。
「やめろっ!」
源助が悲鳴を上げた。
「骨が砕けてるってのに身体動かすんじゃねぇよ」
蓮牙は剣を振り下ろして柄でドールの腹を殴りつけた。
声も上げられずにドールは失神した。
噛んだままの煙草を蓮牙が取り上げて指先で弾く。
「怪我人に無茶させんなよ」
くるりと源助を振り返り、
「ほんとにこいつをがらくたにするつもりか?」
「うるせぇ。ドールは俺のたった一人の相方だぞ、そんなわけねぇだろ」
源助は大鎌を振り回して蓮牙に斬りかかった。
肩口から脇へ振り抜く。
目には斬っているように見えるのに、手応えは全くない。
残像を斬っているのだ。蓮牙のスピードに目がついていっていない。
源助はドールの傍から蓮牙を追い払ってその場にしゃがみ込んだ。
「ドールっ、しっかりしろって」
相棒の頬を軽く叩く。反応は全くなかった。
「おい、人がせっかく寝かしつけてやったのに起こすんじゃねぇよ。余計痛い思いするだけだろーが」
蓮牙は片刃の剣――刀を鞘に納めて二人に近付いた。
「来んなっ」
源助はだだをこねる子供みたいに鎌をぶんぶん振り回した。
「おいっ、てめえも眠らされたいのかよ」
作品名:「蓮牙」2 源助とドール 作家名:井沢さと