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「蓮牙」2 源助とドール

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 ドールは口の端から煙を吐きながら拳銃を持った腕をまっすぐに男――隻身のグローバーの方へ伸ばした。
 グローバーはちっと舌打ちして二人の方へ向き直った。
 「チンピラどもが…」
ぎりっと歯軋りの音が聞こえる。額には血管が浮き上がっていた。
「なぜ俺が隻身と言われているか知らないようだな」
 グローバーは拳をぎゅっと握りしめてから口元へ持っていった。開いた掌から赤白の粒が口の中へ入っていった。
 「あっ、野郎っ、何か飲みやがった」
 源助が大鎌を止める。
 「下手なマネしやがると脚一本じゃ済まさねぇぞ」
 ドールの銃が火を噴いた。
 威嚇のための弾丸がグローバーの頬を掠める。
 隻身のグローバーはにたぁっと顔を歪めて笑った。
 「最近は身体に良くないんで控えといたんだがな」
言葉と同時にグローバーの右肩がぼこりと大きく盛り上がった。それも、尋常な盛り上がり方ではない。衣服を引き破りあっという間に頭よりも大きく膨らんだ。めきめきと音を立てて腕も太股も膨張を続けた。
 「てめっ、キメラかっ」
 ドールの口元から短くなった煙草がぽとりと落ちた。
 「俺はこうなると見境がなくなってな」
 グローバーの右半身は顔まで不気味に変形していた。
 アンバランスに巨大化した腕の先には鈎爪の付いた毛むくじゃらの手。窮屈そうに折り曲げた右脚にも針金のような体毛がびっしりと生えている。
 「ドールっ、資料ちゃんと調べなかったのかよっ。聞いてないぞ、こんなの」
 源助は鎌を畳んで後ずさった。
 「源の字、てめ、逃げんな」
 ドールは自分も後ずさりながらグローバーの右半身を狙って弾丸を撃ち込んだ。
 ごつごつした岩のような筋肉は以外に柔軟で、弾丸を一旦くわえ込むとぷっと吐き出した。
 「バカっ、ドールっ、人間の方を狙えっ」
 源助は鎌を抱えたまま叫き散らした。
 グローバーの巨大化した右腕は彼の武器よりも長かった。
 ――あの鈎爪の攻撃を受けないで奴を攻撃することはできない。俺のスピードじゃあ無理だ。
 彼の判断は早かった。腕には若干自信があったが、それも「普通」の「人間」相手の話であって、普通じゃない、しかも化け物は対象外だ。
 「源っ、逃げんなっ。野郎を引き付けとけ」