「蓮牙」2 源助とドール
2 源助とドール
壁際に、スペーススーツを着た体格のいい船乗りのような男が立っていた。
男と対峙する位置に二人組の片方が立っている。背は高いが幅はターゲットらしき男の半分ほどだ。
「俺は源助」
ひょろりとした男は細長い杖のようなものに寄りかかってくいっと顎をしゃくった。
男が視線を投げた先には、二人組のもう片方、サングラスをかけた黒いスーツ姿の男が煙草をくわえて立っていた。
「俺はドール」
男の腰には大口径のエネルギーカートリッジ銃がぶら下がっており、手にはすでに拳銃が握られていた。
「お前さんは死体になると半値以下だ。生かしといてやるから大人しくしてろ」
先に源助と名乗った男の方が、自分の身の丈ほどの長さの杖を器用にくるくると回して見せた。
「てめぇら賞金稼ぎか」
「外壁」まで追い詰められた男は呻るように言った。
「おうよ。軍と広域警察、シオニード公安警察の許可証、全部持ってるぜ」
くわえ煙草のドールが自慢そうに胸を反らした。
一般に、軍や警察の許可がなくても賞金稼ぎをやることはできる。
賞金は誰もが懸けることができるもので、その賞金も誰もが受け取ることができる。公的機関の懸賞の場合でも、自分が犯罪者でない限り、賞金首を捕まえて所要の手続きを取れば誰でも賞金を受け取ることができるからだ。ただその過程で違法な行為を行ったり、生存が条件の懸賞犯罪者を殺してしまったりした場合、賞金を受け取れないだけでなく、自分が犯罪者として罪に問われることにはなる。
しかし、公認賞金稼ぎは、間違って犯罪者を殺害しても容認される。凶悪犯罪者を軍や警察に代わって追うことを生業としているため、自己防衛の権利が強化されているのだ。建築物損壊、器物破損、傷害などについてもすべて軍が補償をしてくれる。
「幸いお前さんは殺しちまってもいいことにゃあなってるが、ここまでの手間ぁ考えるとそりゃ損だからな。生かしといてやることにしたぜ。ただし、」
源助は杖でとんとんと地面をついた。杖の端で折り畳まれていた三日月の刃が跳ね上がる。
「大人しくしねぇなら、脚の一本も頂くがな」
大鎌を回しながら源助は笑った。
「隻身のグローバー、強盗及び殺人の罪で懸賞三○○万。これで久しぶりに美味い飯にありつけるぜ」
作品名:「蓮牙」2 源助とドール 作家名:井沢さと