さよなら、赤川先生
シャヴィニーとトルシエは、神殿の入り口でたき火を囲んでいた。ノートルダムが奥へ入っていってから、もう半日が経とうとしていた。二人に交わす言葉はない。ただそれぞれが、大切な事について思いを巡らせていた。
ノートルダムは、神殿へ入る前、トルシエにこう訊いた。
「なあトルシエ、最後になるかもしれないから、一つだけ教えてくれないか。お前はどうして俊輔をメンバーから外したんだ?」
その時トルシエは答える事が出来なかった。実際、どうして俺は俊輔を外しちまったんだろうな? よく覚えてないんだが。それをさっきからずっと考えてるんだけど、どうにも思い出せねえんだ。
シャヴィニーはノートルダムの最後の言葉を何度も何度も思い出している。
「僕は死にません。僕は死にません。あなたが好きだから、僕は死にません」
いくら反芻しても意味が分からなかった。先生、これはボクへの最後の試練なんですかぁ? そう思うのも悪くなかった。決して解けない謎は、確かに永遠を孕んでいるのだ。
……夜が更け、星が一際明るく輝く時間になると、風もないのにふっと焚き火が吹き消えた。周囲に明かりはない。真っ暗になる。慌てて立ち上がったシャヴィニーを、トルシエが諫めた。
「しっ。耳を澄ませ」
シャビニーは目を閉じ、体中を耳にした。そしてそれは聞こえてきた。
りん。
りん。
神殿の奥から、鈴の音がしているのだった。音は少しずつ近くなり、数を増やし、二人を取り囲んだ。
りん。
りん。
りん。
やがて一陣の風が吹いて焚き火の炎が巻き起こるまで、痛いくらいに清冽なその音色は二人を優しく包んでいた。