KNIGHTS~before the story~
「……入院?」
その場の空気が急に凍った気がするのは、きっと俺だけではないだろう。
確かに、なっちゃんはいつ倒れてもおかしくない状態だった。でも入院することになるなんて。
「ショックで今までのストレスが爆発したみたいで、鬱の一歩手間なんだそうです」
次第に消え失せていく感情。
失われていく気力。
食事もほとんど喉を通らず、夜も眠れない。そしてついに身体が悲鳴を上げたらしい。
「面会とかって出来る?」
会いたい。
嫌われていないと、まだ『お兄ちゃん』と思ってくれていると、やっと分かったんだ。
「今は寝てますけど、別に面会謝絶とかではないんで大丈夫ですよ。むしろ、会いに行ってやって下さい」
俺たちだけじゃ駄目なんです、と野口君は悔しそうに言った。
次から次へと日常を奪われて、執着心が薄れていく。どうせ失うのだから、何もいらない。せめて幼馴染の野口君さえいてくれたら充分なんだと、なっちゃんはこぼしたらしい。
「…でも、それじゃダメなんです」
頼られることは嬉しい。だけど、責任を果たすだけの力もないんだと、彼は素直に現実を口にした。
「それに、ナツには俺だけじゃないって、ちゃんと分かって欲しいんです。おじさんも、友達も、皆さんもいるって」
その為にも協力して欲しい、と野口君は改まって頭を下げた。
本当なら、なっちゃんの言葉通り、自分だけが側にいたかっただろうに。俺たちに頭を下げたりせず、隔離された世界にふたりでいたかったはずだ。
しかし、彼はそれを選ばなかった。
「頭、上げて」
おずおずと頭を上げた野口君は、今にも泣きそうな、切羽詰まった表情をしていた。
きっと、彼はなっちゃんのことがすごく大切で、だからこそ自分の欲よりもなっちゃん自身の為になるコトを優先させるんだ。
俺たちが会えなかった間、ずっとなっちゃんの側にいたのが彼で良かったと思う。
「ちゃんと、役目は果たすから」
俺たちも『お兄ちゃん』として力になるよ。
バトンタッチとか、後は任せろなんて言えないけれど、ふたりを支えるくらいならきっと出来る。いや、やってやるんだ。
ずっと俺たち野球部を見ていてくれた、可愛い妹に恩返しをしなくては。
今度は俺たちが、彼女を見守る番なんだ。
作品名:KNIGHTS~before the story~ 作家名:SARA