KNIGHTS~before the story~
知らされる
日曜日、部活を終えてグラウンド整備に使ったトンボを片付けていると、フェンスの向こうに見知った人影があった。確かあれは、なっちゃんの幼馴染。
俺はトンボを近くにいたリュウに押し付けて、出入口にいる彼のもとへと駆け寄った。
「…えっと…」
なっちゃんの幼馴染ってことは分かっているが、彼の名前を知らなかったことに今さら気が付く。それを察したのか、彼は会釈をして野口櫂斗と名乗った。
「ナツのことで話があるんですけど時間、良いですか?」
俺たちに気が付いて集まってきた奴らを気にしながら、野口君は控えめに言った。
「それは俺たち全員に?」
それともノリだけ? と横からケンゴが口を挟む。
しかし彼は動じることなく、出来れば全員の方が良いと告げた。
「分かった。ベンチで良いかな?」
運動後の俺たちは別として、冬休み前のこの時季に外で話をさせるのは気が引けたが、部外者を部室に入れる訳にもいかない。顧問の許可があれば大丈夫だろうけれど、生憎、先生はさっき校舎に戻ってしまった。
「大丈夫です」
承諾を受けて、野口君をベンチに案内する。俺たちの後には、他のメンバー全員がついてきていた。
長椅子やパイプ椅子を動かして、全員が輪になるように座る。ちらりと野口君の様子を見ると、予想に反して高校生に囲まれているのに意外と平気そうだった。
少し緊張しているようだが、それはきっとなっちゃんの話をするからだろう。
「すみません、いきなり押し掛けて…。でもアイツ、本当のコトは何も言ってないみたいだったので」
それでちゃんと話しておきたいと思ったんです、と彼は切り出した。
「…本当のコトって?」
静かに訊ねると、野口君は持っていた布製の袋を俺に渡した。何が入ってるかは分からないが、それはけっこうな重さがあった。
「中、見て下さい」
言われて袋の中を覗けば、そこには大量のノートとCDが入っていた。何かと思い取り出すと、それぞれに知っている学校の名前が書かれている。CDだと思ったものはDVDだったようで、ラベルに書かれた対戦カードは過去に俺たちが経験したものだった。ノートの方には、詳しく俺たちの試合データが書かれている。それも、女の子が書くような字で。
どれも監督が離婚してからやった試合のものばかりで、そんなことがある筈なんてないのに、まさかと期待してしまう。
「それ、全部ナツのものです。」
野口君の言葉に、食い入るようにしてノートを見ていた連中全員が一斉に顔を上げる。
「隠れて試合観に行って、学校とかで行けない日はうちの親が代わりに行ってビデオ録画してました。ナツは何回も録画した試合を見てデータとって、ずっと一高の野球部を見てたんです」
……まさか、そんなことがあるなんて。
いつも、スタンドになっちゃんの姿がないか探していた。観ていて欲しいと願いながら、甲子園へ行くという約束を果たすためにプレーしていたんだ。甲子園で活躍すれば、きっとまた俺たちの野球を観てもらえると思ったから。
でも夢は遠退くばかりで、先日のなっちゃんの態度に望みを失いかけていた。なのに、
「…それ、本当?」
気持ちが沸き上がる。
一気に先が拓けた気がした。
「はい。片岡さんのコトは特に聞いています。『お兄ちゃんは凄いキャッチャーなんだ』って」
こんなに嬉しい気持ちになったのはどれくらいぶりだろうか。他の奴らも、明るい表情になっている。
「これから、なっちゃんに会えるかな?」
こうなったらもう、行動せずにはいられない。
今すぐにでもなっちゃんに会って、いろんなことを話したかった。
なのに、野口君は辛そうな表情で俺たちに告げた。
「ナツは昨日、入院しました」
作品名:KNIGHTS~before the story~ 作家名:SARA