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KNIGHTS~before the story~

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気になる


「……一体、どーしたんすか?」
 浅井監督の娘さんに会いに行った次の日、先輩たちは揃って元気がなかった。
さっきまで投球練習に付き合ってくれてたノリさんは特に落ち込んでて、普段ではあり得ないようなミスを連発していた。
 そして他の一年生ふたりと話し合った結果、部活後に話を聞き出そうということになったのだ。
「や、なんつーか……、なっちゃんの状態が思ったより悪くてな」
 そう苦笑しながら、ヒデさんが昨日あったことを簡単に説明してくれた。
 といっても、話の内容はかなり濃かったけれど。正直、その“なっちゃん”とやらは昼ドラのヒロインになれると思う。簡単な説明でこう感じるのだから、本人にとってはどんなに凄まじい経験だったか。
「にしても、ノリさんの落ち込み様が一段と激しい気がするんですけど…」
 そう言ってヒロは、会話に参加せず部室の隅っこで日誌を書いてるノリさんに目をやる。
「あぁ、ノリは『片岡さん』って呼ばれたのが堪えたみたいだな」
 まぁ仕方ないよ、とマサさんが困ったように笑う。
「……あの、前はなんて呼ばれてたんすか?」
 もっともなことをリュウが訊ねる。『片岡さん』って呼び方は別におかしくない筈だ。いくら仲が良くても、異性だし、中学生と高校生だし。
 しかし俺たちはさらりと告げられた答えに驚かされた。
「ノリは『お兄ちゃん』だったな。一番懐いてたし」
 確かに、ノリさんをはじめとする先輩たちが『なっちゃん』を妹のように可愛がっていたことは聞いていた。でも本当に『お兄ちゃん』と呼ばれるほどの仲だとは思っていなかった。
 そりゃ、それだけの仲だった相手によそよそしくされたらへこむよな。
「まぁ、明日っからはまた元通りにしごくからな。今日は悪かった」
 ケンゴさんの言葉に他の先輩たちも頷く。日誌を書き終えたノリさんもその中には含まれていた。
 へこんでもそのままでいるな。
 いつも部活でそう言われていて、県大会後も部に残ったこの先輩たちはいつもその手本だった。でも野球以外の事柄に対してもそんな姿勢を取れるとは。
 やっぱりこの人たちは凄い。
「監督の娘さんのことはどうするんですか?」
 訊くのが躊躇われたが、やはり気になる。
 このまま放っておくなんてことをしないだろうとは分かっていても、話を聞いた限り、どうすることも出来ない状況だ。相手の気持ちも分からないし、下手に動けないのではないか。
「とりあえず、日曜の部活が午前だけだから、またなっちゃんちに行ってくる」
 手を考えるのはそれからだ、とノリさんは苦笑する。
 だけどその表情はさっきみたいに暗いものではなかった。

作品名:KNIGHTS~before the story~ 作家名:SARA