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KNIGHTS~before the story~

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どうか、もう一度


 焼香を終えて、言われた通りにリビングへ向かうと、さっきの男の子がお茶を用意してくれた。本当に、彼はこの家の息子なんじゃないかと思ってしまう。
「そろそろ下りてきますから」
 彼がそう言って俺たちをソファーに誘導した後、本当にリビングのドアが開いた。静かな足取りで、その子は俺たちの前に立つ。
 姿を現した女の子は、俺の記憶にあるものと大きく違っていた。
 活発で、よく笑っていた女の子。
 だけど今目の前にいるのは、痩せ細り、表情のない顔をした今にも倒れそうな女の子だった。元からなっちゃんは細身な方だったけれど、これは痩せ過ぎだ。
「……久しぶりだね、なっちゃん」
 もっと早くに分かっていたら、と思わずにはいられない。一番辛かったであろう時に側にいられなかったことが、悔しくて仕方なかった。
「お久しぶりです、片岡さん。皆さんも。お焼香、ありがとうございました」
 他人行儀で、淡々とした口調。
 呼び方も前とは違う。
 やはりもう、『お兄ちゃん』だとは思われていないのだろう。覚悟はしていたけれど、実際にこうも態度が変わっていると少し寂しいものがある。
 だけど俺たちにとってなっちゃんはまだ可愛い『妹』なんだ。ここで終わらせる訳にはいかない。
「少し話したいんだけど、良いかな?」
 なっちゃんは戸惑ったように、少しうつむく。
 やっぱり話したくなんかないか?
 小さな親切、大きなお世話。
 そんな風に思われてるんじゃないだろうかと、弱気なことを考えてしまう。野球してる時ならいつだって強気になれるのに、こういう場面に立たされると駄目な自分に我ながら呆れる。
 しかし微妙な空気が流れる中、助け船が出された。
「ナツ、俺ちょっと家戻るから。お前はちゃんと話しろ」
 あの男の子はなっちゃんを空いてる席に座らせ、失礼しますと俺たちに頭を下げてから部屋を出ていった。
 バタンっとドアの閉まる音がやけに響く。
「…話って、なんですか?」
 なっちゃんは俺たちと目を合わせようとしない。やっぱり、迷惑でしかなかったのだろうか。
「これから、なっちゃんどうするのか気になってさ。監督もまだ全快じゃないし」
 監督は春の県大直後に、大きな病気で倒れた。以来ずっと入院してて、先月にやっと退院したけれどまだ頻繁に通院している。
 監督がなっちゃんを引き取っても、なんの不自由もなく生活するのは難しいはずだ。住む場所だけでなく、生活リズムそのものが大きく違ってくる。
「卒業までは、この家に居ます。幼馴染の家に世話になりながらですけど…」
 それから先は、まだはっきりとは決まっていないそうだ。
 まぁ無理もない。状況があまりにも複雑過ぎる。
 しかしあのさっきの男の子が側に付いているのなら、最初に予想していたよりも幾分かはマシかもしれない。あの子はきっと、なっちゃんを見棄てたりしないだろう。
 変に期待を掛けるつもりはないけれど、自分たちでは限界がある。
 悔しい気持ちは否定出来ないが、つまらない意地を張っている場合じゃない。
優先すべきはプライドじゃなくて、なっちゃんだ。だからさっきの男の子だって、俺たちをこの家に入れたんだろう。
 記憶にあるあの笑顔。
 なんとしてもそれをもう一度見たかった。

作品名:KNIGHTS~before the story~ 作家名:SARA