KNIGHTS~before the story~
会いに行く
緊張しながら、インターホンを押す。しかし、返事はなかった。
「…今日も留守かな?」
ポツリとカジが呟く。
手ぶらで押し掛けるのもなんだから、なっちゃんが好きだと以前に言っていたケーキ屋で焼菓子の詰め合わせを買い、意気込んで来たは良いものの、留守だとは。気が抜けたというか、やはり連絡してから行くべきだったか。
いや、でも連絡したら避けられるんじゃないかと思ったんだ。
「……その家に何か用ですか?」
出鼻を挫かれ、これからどうするか話し合っていると、いきなり声を掛けられた。そりゃ、人んちの前で五人の男子高校生が作戦会議を開いていたら不審だろう。
しかし丁度良い。近所の人なら何かなっちゃんのことを知ってるかもしれない。そう思って振り返れば、中学の制服を着た男の子が立っていた。
「あ、一高の野球部の人っすよね?」
確認の為に一応、みたいに言われた疑問系の言葉に戸惑いながらも、俺たちは頷く。
「事故のコト聞いて来たんだけど、留守みたいで…」
そう言えば、男の子は眉間に皺を寄せて、ちょっと待ってて下さいと言って玄関に向かう。そして当たり前のようにポケットから鍵を取り出し、なっちゃんの家の玄関を開けた。
「あ、入って下さい」
まるで自分の家かのように彼は言う。そういや、なっちゃんが家族のように育った幼馴染がいるとは言っていたけれど、まさかこれほどの仲とは思ってなかった。
「…俺たちのコト、そんな簡単に入れちゃって良いの?」
カジが最もな意見を言えば、男の子はさらに俺たちを驚かせることを言った。
「あなたたちだからですよ。おじさんのチームの人で、名前も分かってますから。片岡典久さん、加地泰さん、瀬戸口将志さん、松崎賢吾さん、田淵秀和さん、ですよね? 一高の試合はほとんど観たから知ってます。幼馴染からも話は聞いたことありますし」
そんな種明かしをされた俺たちは、大人しく彼の後についていくことにした。
玄関に足を踏み入れると、なっちゃんのモノらしき靴が目に入る。
「なっちゃん、今いるの?」
ケンゴがそう訊ねれば、あっさりと肯定の返事が返ってくる。
「アイツ、大抵は居留守使うんですよ」
つまり、いつ来ても彼がいなければ会えなかったということか。助かったと思う一方、なんだか凄く微妙な心境だ。
まぁ、なっちゃんがひとりぼっちでなかったのなら、それで良いと思うべきなんだろう。
「呼んでくるんで、終わったらリビングで待っててもらえますか?」
俺たちを仏間に案内した後、そう告げて立ち去る彼を見送る。
「……なんていうか、…スゲーな…」
しみじみと呟いたケンゴに、俺たちはみんな同意せざるを得なかった。
作品名:KNIGHTS~before the story~ 作家名:SARA