KNIGHTS~before the story~
大好き
「よく頑張ったね」
そう言われた途端、急に涙が溢れてきた。もう我慢しなくて良いんだよ、って言われているようで、心の枷が外れた気がした。
ずっと苦しかった。
ずっとずっと、寂しかった。
お母さんも、カイも、飯島君も、色んな人がいてくれた。
だけど、お兄ちゃんたちがいなかった。
それが辛くて、だけど辛いと思うのはいけないことのような気がして、行き場のない想いをずっと閉じ込めていた。
その想いが、ストッパーを外されて溢れ出す。
お兄ちゃんから貰ったボールをギュッと握る。
一高の野球部員全員の名前が書いてあるそれには、まだ話したことのない人たちの名前も書いてあった。でも、試合を見ていたから顔も名前も分かる。どんな野球をするのかも知っている。
来年、カイと飯島君は一高を受験するから、この人たちのチームメイトになるんだ。
羨ましい、と思った。
ボールに書かれているように、私もそれに加わりたい。野球部に入れなくとも、せめて一高の生徒になりたい。
お母さんにも言われて志望校は野球部のない学校に決めていたから、それを貫かねばならないとは分かっているけれど。
「……また、キャッチボールしたいな」
ぽつりと呟けば、お兄ちゃんは嬉しそうな顔をした。
「しようよ。いつだってグラウンドにおいで」
久しぶりになっちゃんの投球も受けたいし、とお兄ちゃんは笑う。
ちゃんとした投球練習なんて長いことしていない。
まだ、投げられるだろうか?
投げ方は覚えている。
でも、きっと球威は落ちているだろうし、変化球も以前ほどのキレはないだろう。コントロールだって多分悪くなっているに違いない。
だけど、それでも投げたかった。
投げることによって、いつも気持ちを放っていた。嫌なことがあっても、ボールを投げていたら忘れられた。嬉しい時だって、投げることで気持ちを全面に出していた。
カイもだけど、お兄ちゃんはいつも、ボールをキャッチするだけで私の機嫌を察知していたよね。
キャッチャーってそういうものなのかな。
ねぇ、もしも今ボールを投げたら、この気持ちは伝わる?
私、お兄ちゃんたちが大好きだよ。
作品名:KNIGHTS~before the story~ 作家名:SARA