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KNIGHTS~before the story~

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頑張ったね


 病室に入ると、ベッドの上で上体を起こしたなっちゃんは驚いたように俺を見ていた。
「…片岡、さん…」
 躊躇いがちにつむがれたそれに苦笑する。でも、もう大丈夫。なっちゃんが本心ではまだ『お兄ちゃん』と思ってくれていると分かったのだから。
「野口君がグラウンドに来て、なっちゃんが入院したって教えてくれたんだ」
 近くにあった椅子に腰掛けて、目線の高さをなっちゃんに近づける。
「DVDとノートも見せてもらったよ」
 そう言えばなっちゃんはハッと目を見開いた。そして、気まずそうに視線を落とす。
「アレは……、その…」
「見ててくれて、ありがとう。それと、勝てなくてゴメンね」
 甲子園に行くと言ったのに、先の県大は一回戦負けというみっともない結果に終わってしまった。リベンジしようにも、残された機会は来年のみ。しかも、部員数8人では春の県大にも登録できない。
「監督がいないんじゃ、仕方ないですよ。それに…、みんなが頑張ってたの、知ってるから…」
 だから謝らないで下さい、となっちゃんは言った。
 本当に情けない。
 お見舞いに来た側が励まされるなんて。
 でもなっちゃんがそう言ってくれることが嬉しくて、現状を打破したい気持ちが強くなる。
「なっちゃんに、渡すもんがあるんだ」
 そう言ってカバンから、みんなで決めたお見舞いを取り出す。
 急なことだったので即席だが、みんなで考えたモノ。なっちゃんに気持ちを伝えるには、これが一番だということになったのだ。
「ほら」
 なっちゃんの手に、そっと硬球をおく。
 部室にあった中で一番キレイだったものに、油性ペンでみんなの名前を書いた。二年生だけでなく一年の分も、そして野口君となっちゃんの分も。
 俺たちは仲間なんだよ、っていう意味を込めて。
 また、キャッチボールをしながら色んな話をしよう。なっちゃんの投球を受けるのも良い。一年の奴らが見たら、きっと驚くだろう。
「……な、んで…?」
 俺がそんなことを考えてた一方で、なっちゃんはボールを握りながら肩を震わせていた。涙声で漏らされた声に焦る。
「えっ、あ、ゴメン。嫌だった?」
 顔を覗き込むようにして訊ねると、なっちゃんは首を振る。そして、俺がいるのとは反対側の枕の横から硬球を取り出した。
 真新しい、綺麗な硬球。
「それ……」
「…カイが、『忘れるな』って」
 あぁ、それでさっきボールがどうこう言っていたのか。
 しかし野口君とお見舞いの品が被るとは。先に言ってくれれば良かったのに、と思ったが、きっと気を使ってくれたんだろう。もしくは、だめ押しする為の策略か。
「俺は、忘れてないよ。なっちゃんは俺たちの仲間だから」
 なっちゃんは?
 そう聞けば、震える唇を動かされる。
「何度も忘れようと思った……。でも、無理だった」
 自分を責めるように、なっちゃんは唇を噛み締める。
 そんなことしないで。
 君が忘れないでいてくれたことに、俺たちは救われたのだから。
 なっちゃんはずっと、色んなことを我慢してきたんだろう。
 守れなくてゴメン。側にいてあげられなくてゴメン。
 辛かったよね。
 苦しかったよね。
 そっと手を伸ばして、なっちゃんの頭を撫でる。以前、よくやっていたように。
「よく頑張ったね」

作品名:KNIGHTS~before the story~ 作家名:SARA