竹草少女
「誰もいないかぁ…」
どうやら先ほどの会合の解散で、生徒会員も直帰してしまったようだ。流生も副委員長の助けを得て、ひとまず学校端末からプラン・シートのフォーマット・データだけはダウンロードしたのだが、いまいち肝心の項目の意味するところが分からない。具体的にどういうデータを記入していけばいいのかを聞こうとしたら「その辺はよく分からない」と副委員長に言われてしまったのだ。
(明後日までに埋めておけとか書いてあるし…やっぱやるんじゃなかったーっ)
後悔の念に駆られるが、そもそも承諾したという自覚はなかったのだから、決定的な所でやはり彼女としては理不尽さを感じずにはいられない。何から何まで―――そもそも委員長になった事すら―――自分の意志だということに“なっている”だけで、それは彼女の思うところではなかったのだが、どうにもその辺は説明して分かってもらえるようなものではないらしい。
理由もこれといった正当性も無い自分の行動すべてを理屈と論理で説明して納得してもらう必要がある。だがそれは既に前提が矛盾している。
それほど物事を深く考えない流生の頭でも、何となくだがその辺の難しさは察する事ができた。
「あああぁぁああ」
一気に気分が重くなってくる。やはりやるしかない。
「適当に埋めて、駄目だったらやり直すしかないか…ぎゃっ」
(あだぁっ)
鈍い音が響く。彼女の額と木製の扉が反動で揺れる。彼女の視界も揺れる。
誰もいないと思えた生徒会室の扉が突然開いたのだ。半ば諦めかけていたときに突然開いたため、予想外の事態と接触の衝撃の両方で頭がくらっとしてしまう。
「あら、ごめんなさい?」
その疑問符には、暗に「大丈夫かしら?」という配慮と「私のせい?」というわずかな邂逅への責任転嫁があった。
「い…え、大丈夫なの、です」
(痛いし…)
言葉とは裏腹に弱冠の非難をこめて額を抑えながら頭を上げると、膨らんだ胸に視線が釘付けになる。
「あ…う?」
「私の胸をそんなにじっくり見つめられても困るのだけれど」
次に出す言葉が見つからず、じりじりと後ろに下がってしまう。
流生の身長が一五七センチに対して彼女の身長は一七三センチ。導き出される彼我の身長差は十六センチ。
ただでさえ半頭身低いのだから、頭を抑えて腰を落とせば鎖骨の辺りまで目線が落ちてしまうのは致し方ない。