竹草少女
思わずどきっとしてしまうが、その動作はむしろ彼女を前にすれば当然のようにすら映り、周囲もまた動揺する流生の挙動を責めない。
「ぜ、全然大丈夫です」
それは“聞く準備が出来ている”という意味での事だったが、この場ではもっと別の事を意味していた。
「そう」
「じゃあ体育祭の件、備品関係と設置、人員は完全に任せたから。プログラムは従来どおり、生徒会が担当するということで」
会長がにこやかに笑い、パン、と副会長の手が鳴り、一気に会議室の中がお開きムードになる。
「ねえ、あんたホントに意味分かってた?」
「ううん、あんまり」
横で副委員長として出席していた友人の追及に、彼女は曖昧に笑うしかなかった。
後で知らされた事だが、陸上部のマネージャーなら体育祭関連の備品は勝手が効くだろうから、すべて任せてしまおうというとても乱暴な話だったのだそうだ。実際には設置用具はすべて陸上とは関係ないものばかり―――それこそパイプ椅子から事務職員専用の給湯設備の移動まで―――だったりするわけだが、そういう細かいところの事情はもちろん彼女達は知る由もない。
「はーめんどくさー」
口とは裏腹にどこか軽い彼女―――というのも彼女はあくまで副委員長だからなのだろうが―――が軽く目を閉じて伸びをする姿を(なんかいいなぁ)なんて笑って見つめながら流生は呟く。
「なんかいろいろ任されちゃったけど、大丈夫かなあ」
「男子がちゃんと動いてくれれば何とかなるとは思うけどねえ」
彼女の言葉に少し首を傾げる姿で思案したが、すぐに顔を明るくして言う。
「でも大丈夫よ、何とかなるんじゃない?ちゃちゃーっと終わらせちゃいましょ」
「うんうん」
「それじゃあ委員長殿、プラン・シートはよろしくですっ」
「え?」
軽やかに笑って去っていこうとした副委員長を慌てて引き止め、呆れ顔でいろいろと説明を受けた彼女は「詳しいことは五月姫会長に聞いたら?」と最終的にあしらわれてしまい、困った顔で生徒会室の前に立つことになるのだった。