竹草少女
「す、すいません…会長」
後ろ手で生徒会室の扉を閉めた五月姫が、こちらに向き直り、僅かに首を傾げていた。
(なんかすっごいドキドキしてるんですけどっ)
「さっきの会議でまだ伝わらなかった事があったかしら?」
まるで一目ぼれした相手を前にしているような動悸の激しさに襲われている前で、当の彼女は腰に手を当て、流生が胸に手にしているプラン・シートを見つけて言う。
あっ、となる。目的があって来たのだったという事実そのものを忘れていた。
(ええと、何が聞きたかったんだっけ)
必死で頭を整理しようとするよりも、五月姫の秀麗な口唇が開かれるほうが早い。
「いろいろ書いてあるだろうけれど、基本的にはあなたが必要だと思うことを書いていいのよ。そこに書いてある内容を私たちが勝手に解釈して必要な事は全部事務的に処理するし、足りない内容があればそのときは随時あなたに知らせていく形になると思うわ。結局プラン・シートなんてものは学校側に対する進捗度の報告や管理上必要な情報のまとめでしかないのよ。そもそも予定や計画の段階から完璧な報告は不可能なのだから、どうしてもその辺りは事態の進行にあわせて対応していく形にしかならない以上、やる前は多分いろいろと不安に感じることもあると思うけれど。実際に物事を進めてしまえばむしろそういう不安はなくなっていくはずよ。それでも進退窮まるような事があるのなら、そのときはわたしや生徒会の人に言ってくれれば、その処理も手伝えると思う」
ぽかん、としてしまう。今まさに流生が聞こうとしていた事を全部言われてしまって、二の句が継げない。
「その上でまだ何かあるなら、少しだけれど今時間を取れるわよ?」
「い、いえ…結構です、ど、どうもありがとうございました」
(なんなんだろう、この差は…)
そう、と言って微笑みかけてくれた彼女に、自分がある種の安堵感のようなものを感じている事を自覚する。
なんてことは無いのだ。単に「適当にやってね、こっちもそれにあわせるから」と言われただけの事なのだが、なんだか自分の感じていた事を言う前から言い当てられた驚きやら何やらで、自分の感じていた不安は一体なんだったんだろうと思わずにはいられない。
「それじゃあ、頑張ってね」