竹草少女
人とはいつも違うところで頑張っている彼女は、こういうときどうしてもぼーっとしてしまう。普段余計なことをたくさん考えている分、こういうとき何を考えたらいいか分からないので、ひとまず思考を停止して身体を休ませているのだ。
だから突然発言を求められたとき、彼女は実は話の内容も流れもまったく理解していなかった。
ただ、曖昧に頷いてみせた瞬間、事態が一気に進んでしまったのだ。
「本人が頷いているわ。なら、それで大丈夫なのでは?」
「オーケイ、じゃあ六月の体育祭行事は、総括はいつもどおり会長、現場担当は“陸上部マネージャー”さんって事で」
「えっ」
それが自分の事を言ってるのだと、ハッとなって悟る。
「大丈夫かしら、少し話が急過ぎたようだけど」
ぽーっとして声のした方を向くと、案件が終わってすっきりした顔で書記に指示をしている生徒会副会長と、会長の姿があった。
(会長の髪って、長いのになんであんなに清々しく爽やかなんだろ…)
彼女の脳内では、五月姫のその姿を見てまたどうでもいい事に思考が流れていたのだが、周囲はどこか“うんうん”“分かる分かる”というような共感的な視線を彼女に送っていた。
水泳部部長にして生徒会長。成績は上位三位以内―――常に一位か二位のどちらかだが―――身長一七三センチにして肩幅は広く、小顔で長い手足。華奢なパーツが細さを主張するのに対して、四肢を支える肉体の方は成長を主張し、適度に熟れた各部がしっとりと丸みを形づくる。
彼女の名はサツキ。五月の姫と書いてサツキ。
五月という単語にはそれ自体で様々なイメージが内包されている。春を象徴する豊穣の月でありながら、かの魔女達の夜会(ヴァルプルギス)もまた五月に行われ、その晴れ晴れとした姿の中に、密かで些細な悪戯心や小さな悪意・皮肉を含む。
彼女の端正な顔立ちには、見つめられる者すべてを眩しくさせる天使のような光も、小悪魔のような人を翻弄する赤い舌と深い眼差しも、すべてが備わっていた。
“ザ・パーフェクト”。全員がそう判定する。
後は相応の歳を重ねるだけで、本物の女の誕生だ。
「聞いているかしら」
「はっ」
彼女の深くそれでいて透明な髪の色が、長く直毛の芯の強い毛髪を神聖化しており、美しい光の輪を頭頂部に讃えながら、その裏に隠された切れ目の瞳が優雅に流生の方を捉えていた。