竹草少女
それでなくとも彼は既にこのわけのわからない“種”―――といってもこの形態を見るに植物よりも動物的な成長であり、彼が最初に提唱した“卵”もあながち間違いではなかった事が分かるが―――によって“改造”され、化け物と同義になっているのである。
不思議と魔女(ラビ)と話していたような苛々は感じなかったが、それは恐らく事態があまりに超然としすぎていて、いちいち反感を持っている余裕すらないからだという事は、聡雅には分かっていた。
だからこそ、いつものように彼は冷静に分析をする。
「『種が適応し、変化する』の意味は分かった。つまりこいつは人間だらけのこの世界に適応するために、人間の形を取ることにしたわけだ。俺か流生がそのサンプルなんだろう。女みたいだから流生がサンプルか?まあ何にせよ既にコピーは終わっているみたいだ。だが、ここで別の問題点が浮き上がる」
彼は昼から気がかりになっていた点を話し出す。
「それが“このタイミング”で行われることに、どうも意味があるような気がする。そうなんだろ?魔女(ラビ)の台詞や忠告の根拠となる“予見”と、“前例”からすれば、いまこのタイミングで“種”がこういう成長した事には、相応の理由があるはずだ」
「頭の回転は早いようですね。その通りです。魔女(ラビ)が折に触れて忠告をしたように、“危機”が迫っている。だからこそ、種は短時間でここまで形態を整えた」
「ならば敵はココにくるはずだ。そうだろう?お前たちの言う“鴉”は種を食うのが役割だ。何故なんのアプローチもしてこない。あるいは既に攻撃ははじまっているのか?」
「その点に関して魔女(ラビ)は何も申してはおられませんでしたが…」
はじめてここで錦(にしき)も語尾を濁す。彼女もまた同様の疑問を抱えていたのだろう。
種を襲う時間などいくらでもあったはずなのだ。
基本的に生物の本能というのは謎が多く、食事に関しては特にそういえる。例えばある哺乳類は、生まれてすぐの状態では目が見えないにも関わらず、巧みに母乳の位置を探り当てるのだという。それは既に本能として掘り込まれているのだ。中指の発達したある種の猿も、その実の食べ方やくり抜き方を教わらずとも知っていて、最初は見よう見まねで練習しながらだが、それでも着実に掘り込まれた指の使い方が徐々に洗練されていくのである。