竹草少女
五メートルほど体長がほとんどその部分のためにあるのだと考えても違和感がない。
例えば“人桃果”という果物が有名な伝奇小説・西遊記にある。
桃は元来仙人に力を与えるものとされているが、その中でも人桃果は非常に美味であった半面その姿かたちが一見して赤子のような姿をしているなど、非常に特殊だった。その姿ゆえに三蔵法師は「赤子を食べるなんてとんでもない」とためらい、その様を嘲りながら孫悟空たちは遠慮なく人桃果を食べるという一シーンがある。
そのときは聡雅は「食い物だと言ってるんだから黙って食えよ」などと思ったものだったが―――
(気持ちは…わからんでもない)
今聡雅自身がそれを目の前にして、三蔵法師が食べなかった理由をまざまざと悟る。
五メートルあるかという成長した植物の、その真ん中が、大きく膨れ上がっている。
緑色の袋状に成長した部分がやんわりと曲線を描き、ぴったりと“中身”に張り付いてその輪郭を丁寧になぞっている。
足を組み、手で抱えている。頭は膝の間に入っていてよく分からないが、やや人とは異なる形をしてはいる。
だが全般的に見てそれはまぎれもない―――人。
人が、中に入っているのだった。
(女…だな)
腰の形や肩を見てそう確信する。専門的な知識がなくとも、大抵おおまかな形を見るだけで同種族の性別は分かる。
それだけ毎日人は人を見て生きているのだ。
天井や壁を見ると、植物がその蔦や蔓を伸ばして中心部を支えているのが分かる。
それを見て、“スピーシーズ”という妖艶な雌の宇宙人が次々と男達を襲っては交尾を繰り返すホラー映画が思わず彼の脳裏をよぎる。
登場シーンでは一人の少女を寄り代にした“イヴ”と呼ばれるその宇宙人が、逃亡中の少女を電車内でいわば剥き出しの肉膣の形に変貌させ、一人の客室乗務員を喰らった後に成人女性を模って出胎するのである。
感動的な出産シーンだが―――(あれは普通にグロテスクだったな…)
今目の前にある状況が、まったくそれに似ている。
それは大いに彼にとって問題であった―――交尾をした後、男は全員殺されているからだ。