竹草少女
それはひどくぞっとする感触なのだった。
どうにもならない事が存在する―――そんなものは自分の周りにありふれるほどある。だがそんなありふれてどうしようもない事すら、まるで道路の蟻のように踏み潰すような“何か”が、実は根源的なところで自分の存在に関わっているのに、誰もそれに気付いていないかのような感覚。
そのことを意識するたびに彼の中で、俯瞰してはじめてそのぞっとするような真相に気付くような―――恐怖の一歩手前のもぞもぞとする感覚が彼を襲う。まるで自分が今日の今日までのんきに眠っていたベッドの下は、大量の虫の死骸とそれを食う別の虫の温床で、壮絶な生存競争の場だったのだと知るような―――。
「少し口が滑りましたか」
暗い思考に沈んでいた彼の意識を、錦(にしき)の淡々とした声が呼び戻す。
「しかし私はあくまで“従者(オキュペー)”。出すぎた真似は許されませんので」
ただただ彼女もまた、事実を彼に告げるのみ―――だがその無駄なものが一切ない態度は、むしろ聡雅を冷静にさせた。
(考えたってこれはしょうがないことだな…今はとにかく目の前の“こいつ”を何とかしないと)
聡雅は我に返って、小部屋を大きく占拠している“こいつ”を見る。
『種は適応し、変化する』。
ある種の生物や植物は、先見的に危機や環境の変化を機敏に感じ取って、自身の成長を早めたり遅くしたりする事が出来る。
だがこの場合、その反応がやや劇的過ぎた。
「昼まではあんなに小さな“芽”だったんだが…」
時間にしておそらくわずか数時間だろう。既にその体長は、五メートルを越していた。
植物の分裂細胞が集中する先端部分は成長しすぎて天井にぶつかり、歪に形を捻らせている。
「これでもまだ発芽すぐの段階です。子葉が本葉になるかならないかという程度でしょう」
よく見ればたしかに芽だったころについていた小さな葉が、根に近い部分に小さくついている。
代わりに子葉とは比べ物にならないほどの大きさの葉がついているが、しかし確かに蔓や蔦全体と較べて確かにその大きさはたいした程ではないようにも感じられる。
一言で言えば、大きすぎたのだ。
「葉なんかより…問題はこれだろ」
聡雅はその大きすぎる部分、“問題はこれ”に触れる。
あまりにその部分が大きすぎて、他はすべて小さく見える。