竹草少女
終業の鐘が鳴る。
しかし鐘が鳴ると同時に教室から出られるクラスはといえば、これは稀だ。大抵の場合ホームルームというものは、要領を得ない教師の連絡や報告・幾ばくかの世間話や身辺注意・個人的指摘などによって時間を潰され、肝心の話自体は三分にも満たないというのに、何故か数十分も水増しされている事が多い。
何を隠そう聡雅が所属するクラスの担任がそのような人物であり、彼は先述のような不満を常に内心で漏らしているのだった。
(いいから…もう終わらせろ)
十数秒に一回、同じサイクルで同じ苛立ちが循環してくる。
こういうときは、まったく関係ないことを考えて時間が過ぎるのを待つに限る。
彼は視線をつい、と横にずらす。
窓際列後方から二番目。教室におけるベストポジションと考えられている席を、聡雅はぼんやり見ていた。
彼自身はその斜め後ろ、窓際二列目最後尾に座っている。
少女はやや肩にかかりかけた黒く短い髪を垂らしながら、黒板の方を見ている。
真面目に聞いているのかいないのか、それは彼からは判別できない。
彼女―――流生の方に目線だけを向けながら、聡雅は悩む。
(どうやって説明するか…)
“種”について魔女(ラビ)から得た知識は、彼なりに整理はしてみたものの、やはりどこかお伽話のような突拍子のないことにしか思えない。
当事者である自分がそうなのだから、実際にその場を目にしていない彼女にしてみればなお更の事だろう。
ここ数日彼はそんな事を考えながら彼女と接していたのだった。
しかし魔女(ラビ)の話によれば、もうすぐ“種の危機”―――最初は“鴉(カラス)”だと言っていた―――が訪れるはずなのだ。
既に向こうは動いている可能性もある。
(何が『伝えるべきことは伝えた』だよ…ただの事実報告なんざ何の役にもたちやしねえ)
落ち着いて彼は整理する。
疑問点は二つ。
ひとつ。
そもそも“鴉(カラス)”とは文字通りの鳥なのか、あるいは何らかの呼称なのか。相手の姿かたちが分からない。
流生の元にやってきた“種”と同じような、何らかの怪異もしくは外来生物の類なのか。あるいは自分の“案山子”のような、異形な能力か何かなのだろうか。
ふたつ。