竹草少女
「まあ結果として、生命の危機と理不尽な事に対する君の怒りに大きく反応して、撒かれた君の役割が開花したというわけさ。良い触媒効果だったんじゃないかな、うん」
結局、良いように弄ばされていたように感じる。手のひらの上で都合よく転がされていた感触がどうしても否めない。
なんとも大雑把で適当に転がされていたものだ―――どうせ転がされるならもっとスマートに転がして欲しい。
(そう言えば、俺が流生(るい)からはじめて種を見せられたとき、種が震えたような気がするが…“種が撒かれた”っつーのはあのときのことか?)
思い当たる節が彼にはあった。とすると、流生(るい)もまた、何かを種から受け取っているという事になるだろう。
彼は先程からそのことを考えていたのだった。
(あいつはもう、自分の変化に気付いているのか…?)
「まあそういうわけだから、君は種の使命が終わるまで、上手くその能力と向き合っていく事だ。まあ自分自身と向き合うっていうのもどこか滑稽な話だけどね。でも哲学的に言えばそれはとても難しいことだとも考えられるのかな?かな?」
軽薄な便箋の声に聡雅はふん、と鼻を鳴らして反応しない。どうにもこいつの言葉には重みというものが感じられない。
そもそも魔女(ラビ)というのも得体が知れないのだ。
一体何のために彼の前にこうして現われて忠告をしにきたのだろうか。
直接聞いても本当の事を言ってくれるとはとても考えられない。しかし信用できないからといって、こちらにその真偽を確かめる術はないのだ。
アンフェア―――どうにも納得のいかない話だ。
言いようのない苛立ちが、やはり聡雅の中ではうずまいているのだった。
しかも聡雅の中で合点がいかない点はほかにもあった。
「どうにも俺はスッキリしねえな。不明な点が多すぎる。説明されても、正直まだよく分からん」
「でも事実だけはそこに間違いなくあるからねえ。“種”はたしかに存在しているし、君の“案山子”も存在する」
「それもあるが、俺が話しているのはもっと根本的な部分だ」
(―――例えば、それをベラベラお節介にも近い形でわざわざ説明しにきてくれるお前らは一体なんなのか、とか)
内心で聡雅が考えている事を既に見透かしているのか、便箋からはなおも薄っぺらな笑いしか響いてこない。