竹草少女
端的な事実であることは分かっていても、聡雅としては解せない。だが事実の方は、そこに確かにある。
「姿に及ぼす影響を見ていても分かるように、これはいわば君の分身だ。そこを忘れないように」
「ああ…そのことは、よく分かったよ」
錦の方をちらりと見ながら、聡雅は答えた。
それにしても、と彼は呟く。
「でも天敵から守るって言っても、一体何からなんだ?」
「最初に来るのは間違いなく“鴉(からす)”だよ」
「だから何なんだよそれは…」
もちろん説明は受けていたのだ。
だがそれがあまりに突拍子もなさ過ぎて、彼にはいまいち具体的な危機というものがつかみきれていなかった。
あの日たしかに“魔女(ラビ)”は言った。
種の使命と、それを取り巻く危機の事を。
「説明しただろう?“種”には使命があるんだ。それは生物一般に備わる本能と言っても差し支えないね。“種”は自身を次の生命へと繋ぐために、花を咲かせて実をつける。種に襲い掛かる危機とは、その使命に襲い掛かる危険や困難“すべて”さ。強いて言うなら鴉(からす)の場合は、種を食いにやってくる。そして種を守る案山子の役目をもらった君は、それを防がなければならない。いや、この言い方は正しくないかもしれないね」
便箋の声が言い直す。
「君は、種に選ばれたんだ。種は君にお願いをしている。きたるべきときまで、自分を守ってくれと。そして君の能力が開花した。種が君に種を巻き、瞬く間にそれは開花したのさ。まあ“ショック”を与えて指向性を持たせたのはボクの計らいなんだけどね」
だから聡雅を“怒らせた”のだという―――それを聞いたとき聡雅は「怒るようなことを言われたから怒るなんて退屈」という錦の言葉を思い出してまた顔を曇らせたのだが、それにしてもやり方が粗雑過ぎはしないだろうか。
「それは完全にボクのミスというかなんというか。本当は恋文程度のちょっかいで終わらせるつもりだったんだけど、君が逆にうちの錦(にしき)を怒らせちゃったからねえ…彼女、ああ見えてあんまり怒らないタイプなんだよ?」
確かに超然とした雰囲気を纏っている少女が、ああも憎憎しげな姿は想像がつきにくい。実際に見ていなければ聡雅もおいそれとは想像できない。