竹草少女
そして再び時は、聡雅が図書室から教室へ戻ろうとして錦に呼び止められた日に戻る。
校舎裏へと移動した聡雅は、錦から手渡された便箋を開いていた。
それは恋文が書かれていたものとまったく同一の種類で、通常よりもやや分厚く、たかが便箋にしてはやたらと凝ったデザインが施してあるのだった。
「君の案山子は今日も機嫌が悪そうなんだねえ」
そしてその便箋が―――聡雅に話しかけてくる。
錦(にしき)の主にして“先生(ラビ)”であり、自身を魔女と名乗るその声は、陽気な女性のそれと遜色ない。
ひどく爽やかですらある。
声からして女性―――彼女は、恋文の日に彼に“危機”を教えるために錦を遣わしたという、その本人なのであった。
既にあれから数度、この“伝文”と言うメッセージを受け取っているからこそすれ、当初は自分がおかしくなってしまったのかと聡雅は正気を疑った。
なにせ「これは一体なんなんだ」という聡雅の問いに対して錦は「ラビからのメッセージです」としか言わず、「それは分かるが“コレ”は何なんだよ!」となおも食い下がった聡雅に対しても馬鹿にしたように「ラビはよく伝文を使われるのです」としか説明しようとしなかったのだ。もちろん締め上げられた直後であったし、互いに剣呑な空気だったのでそれ以上はなしたくないという気持ちもあったのだろうが、何よりも錦の目が「理解できない能無しには教えてやる義理なし」と雄弁に語っている事が聡雅には分かったので、どうにも彼としては釈然としない―――というよりむかつくのだった。
何であれ誰かに嫌われたり馬鹿にされるというのは嫌なものである。事実彼とて、まぎれもない錦の手で意識を失いかけたのだ。
「むしろあんたの“下僕(オキュペー)”の方が機嫌が悪かったみたいだが」
先刻の事と“そのときの事”と、両方を思い出してぼそっと聡雅が呟く。
当然それは彼女の耳にも届いていて、明らかにムッとした表情を作った錦の背後の影が、またしてもビクビクと脈打つ。
「こらこら、もっと大人にならないと駄目だよ。特に女性に対してはね。この前みたいに首を締め上げたりしてはいけないよ?」
それを聞くと、聡雅の顔も同じくらい曇るのだった。
聡雅はあのとき錦を締め上げた“何か”の正体を聞かされていた。
そして深く反省していたのだった。