竹草少女
「私が“主(ラビ)”に申し伝えるようにと預かったメッセージは」
「おい」
なおも言葉を続けようとする少女の前で、彼の中の何かが音を立てた。
それは鉄筋コンクリートのような、本来強固で冷えきって固まりきっていたはずの彼の心を容易く引き裂いて現われた。
「“主(ラビ)”ってのが誰かは知らんが、随分とくだらない野郎なんだな」
ひどく冷たい声が彼から出た。
「…どういう、事ですか」
少女の顔色が変わった。予想通りの反応に聡雅はせせら笑う。
「どういう事も何も。お前自身がくだらない人間だからな。そういう人間が信奉する奴ってのもたいしたことのない、くだらない野郎だってのは想像にかたくないだろ」
現に、と聡雅は続ける。
「さっきからお前が言ってるのは全部“主(ラビ)”とやらの言葉で、お前自身が俺に対して言った言葉はただ一言“退屈です”ってだけなんだからな。あんだけべらべら喋っておいて、結局てめぇ自身は“退屈です”って言いたかっただけかよ。御託並べるわりには結局蓋を開けたら餓鬼みたいな事しか言ってねえんだ。これを下らないと言わずしてどう言うんだよ」
ひどく攻撃的になっている自分を客観的に見つめて、どこか納得している自己が確かに存在していた。
ああそうだった―――自分はいつも怒りを抱えていたのだ。
こうやって怒り狂っている自分がむしろ自然なのだ。
めぐり行く世界の中で、ちっぽけな個人が思うことなどまったく関係のない話―――それは裏を返せば、個人が思うことにセカイなんてものはどうでもいいということでもあるのだった。
いくらセカイの方が関係がないからといって、彼個人が思う怒りや納得のいかない心は、それ自体で何も変わるところはないのだ。
「犬に向かって“犬っころ”と罵ったってそんなものは滑稽なだけだ。何のことはない似非分析家だな“主(ラビ)”とやらは。当たり前の事を当たり前のようにべらべら喋ってるだけだ。『“主(ラビ)”の言うとおりでした』だぁ?それは単にお前自身が馬鹿だからそう思うだけだ。人を怒らせる方法なんてのは三歳の餓鬼だって出来る事なんだぜ?今更そんなものに歓心しちゃってるお前って何なのよ。本当にくっだらねえな。そんな方法論、いくらでも世の中に転がってるじゃねえか」
それとも、と聡雅は続ける。