竹草少女
「魔女たる“主(ラビ)”はあなたに忠告することがあるのです。私はその使い魔としてここに存在し、あなたにひとつの危機と、その際にあなたに与えられる役割を教えるために来ました」
「どうでもいい」
少女の言葉を最後まで聞かず、聡雅は既に背を向けていた。
「そんな、待ってください」
「俺がそれ以上話を聞く義理がどこにある」
述べながら、聡雅は自分がらしくもなく不愉快な気分になっている事に気付いていた。
博愛主義者たる自分―――聡雅は自分の事をそう思っていて、他人のことはそこまで好きでもなく、嫌いでもないと思っていた―――が、こうもずけずけと勝手な事を言われて、多少でも傷付いている事を認識して情けなくなってきていた。
「『プライドが高い』…」
だが直後に錦(にしき)がそっと呟いた言葉に、聡雅はかっとなって思わず足を止めてしまう。
「“主(ラビ)”の言うとおりですね…『劣等感の強さがプライドの高さを示している』『博愛主義を気取るが本当は臆病なだけ』。『だからこれ以上傷つくくらいならと、きっと彼はすぐに去ろうとするだろう』」
内心で考えている事は、角度を変えてみればまさにそういう事になるだろう―――そのことを聡雅は考えて、頭の中が屈辱で真っ白になる。
「『基本的にセカイと自分は断絶して全く無関係に進んでいると感じているので、どうしようもない孤独を直視せざるを得ない』『そうした背景は彼を“どうせ自分を完全に理解できる奴なんていないだろう”と理性的に判断させ、その結果まるで自分を分かったかのように扱う他者や他人の存在に過剰なまでの嫌悪感や攻撃的衝動へといざなう』」
聡雅の震える指先を見つめながら、事務的に事実を告げているだけだとでも言うように、錦(にしき)は留まるところを知らない可憐な口唇をただただ開き続ける。