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ほのむら伊流
ほのむら伊流
novelistID. 498
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竹草少女

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「変なもん貰っちまったなぁ」
 聡雅はいつものように重そうな瞼を半分開いたような、いつもの眼差しで便箋を開いていた。
 しかし決して気分が悪いわけではなかった。
 恋文というのはそういうものである。誰かは分からないが自分を好きになってくれる他者が存在している―――ただそれだけの事実で人の心はずっと軽くなるのだ。それこそ、天に昇れるのではないかと錯覚する程に。
 そうであれば、彼の態度はむしろ落ち着いていた方と言えるだろう。
 ただ淡白に手紙を見つめ、示された時刻と自分の時計を照らしあわせ、場所を確認し、のんびりそこへ向かったのだ。
 彼はそのとき少し驚いていた。
 自分の事をそのような目線で見ている他者が存在することが驚きであり、それに対して自分がどのように答えるかを考えて、それが容易に出てこない事に何よりも驚いていた。
 頭の中にあったのは、とにかく会って話してみよう、といういわば“保留”だった。
 彼は自分が同年代の人間と較べてはるかに軽薄さを隠すのが苦手であるという事を理解していた。
 醒めている人間など珍しくはない。軽薄な人間も珍しくもない。いるとすれば、それを自分の中で騙したり隠す技術が上手いか下手かでしかない。あるいは今はそうでないにせよ、来るべき未来において恐らくそうなっていくだろうというだけの話。
 むしろ無駄に熱い人間やはたから見れば「あいつらは何やってんだ」と呆れてしまうような人間こそ、実は誰よりも淡白で誰よりも軽薄なのであると彼は考えており、もしどこかで決定的に他人と浮いてしまっているような自分との違いがあるとすれば、それはちょっとした認識の違いと、そしてほんのすこし自分が他人よりも嘘をついたり自分を騙すのが下手なだけ―――そう彼は考えているのだった。その差が歳月を重ねるごとに、そうそう縮んではくれないような溝になってしまったというだけの事だ。
 だから彼が真っ先に心配したのは、自分のような淡白さをどこかで決定的に捨てきれないような人間が、恋文を書けるほど何かに熱中したり没頭できるような熱さを持つ人間を前にして足を引っ張ってしまうのではないだろうか、という事だった。
作品名:竹草少女 作家名:ほのむら伊流