竹草少女
だから会わないときは本当に、まったくコンタクトを取らない。そんな彼らは、図書館で偶然に顔をあわせたときだけ、こうして短い会話をするのだった。
互いに互いをよく知らない…だからこそ、こうした接し方が出来るのかもしれない。
(聡雅さん…あなたは、彼女の事が好きなのではないのですか?)
渡り廊下を新校舎へとたらたら歩いていく聡雅の姿を、智也はどこか寂しそうに見ていた。
(智也はよく分からねえんだよなぁ…話なげぇし。これ授業遅れるかな。もうちっとゆっくり行くか)
智也がそう考えている事を、聡雅は知らない。
こんなすれ違いばかりがこの二人を成り立たせている事に、二人とも気付かない。
だが少なくともこのことだけは真理であった。
“だいたいお前らの人間に対する印象ってのはどいつもこいつも大雑把で適当だよな!”
「そこのあなた、待ちなさい」
だからまさに教室へ戻らんとしていた聡雅を呼び止めた少女の事も、彼にとっては曖昧でどこかぼやけた風にしか掴めなかったのだ。
ただそれでも聡雅はその少女を見て感じた事があった。
(こいつぁ…やべえヤツがきたな)
「錦(にしき)、か」
「気安く名前を呼ばないでくださいと以前言いましたよね。わたしもあなたの名前は呼びません」
聡雅はこめかみに青筋を浮かべながら、彼女の方へと向き直ったのだった。