竹草少女
聡雅は正直に述べる。
聡雅が思ったとおり、智也は笑った。こういう笑いが、聡雅は嫌いではなかった。
「正直ですね。まあ下手に本心隠す人よりは良いですが。聡雅さんは相変わらず演技が下手だ」
「うるせぇよ…お前の偽善者っぷりは見てて心地よいもんがあるが、俺自身はお前みたいな生き方はとてもじゃないが出来ねえんだよ。うだうだ喋ってみせるのも本当は好きじゃねえんだ。どうせ伝わりっこないんだし」
「ボクの前でそんなに喋ってくれるのは君ぐらいですからね…それは少し残念です」
ここで聡雅は少し苦笑いした。
「俺だけじゃねえだろ?というかお前やっぱり“あいつ”の性格が移ってきたな?だいぶ口調が似てきているぞ。演技が上手いのは結構だが、役に嵌まりすぎるのもどうかと思うぜ」
「そうですか?それは嬉しくもあり、やや意外でもあり…」
その言葉に智也はやや眉根を寄せて複雑な心境を表に出す。
「ま、頑張れよ少年。あの手の女は俺はどーにも駄目だ」
「聡雅さんはしないんですか?恋愛とか」
「あー…どうだろうな、それもアレだよ」
「保留、ですか。まあそれだけ相手に対して誠実という事にはなるんでしょうか…」
「お前が誠実じゃないとは言わないよ。ただ俺はああいう奴を見ると、どうしても矯正してやりたくなっちまうってだけでさ。お前みたいにただ見守っててやるって事が出来ないときがたまにあるんだ」
「たしかに彼女は…きっと良い結果にはならないでしょうね、あのままだと」
「それが分かっていながら、でもお前はあの女のそーいうところが好きなんだろうなぁ…複雑だな」
「ですね。実はボクのような人間が、彼女を駄目にしてるのかもしれません」
やや沈黙が二人を包んだ。
その沈黙を、始業の鐘が砕く。
「じゃあまたな」
「あ、そうそう」
去ろうとした聡雅を智也が呼び止める。
「最近、聡雅さん女の子と一緒にいますよね…委員会の子」
「ん?ああ…ちょっと色々用事があってさ」
「そう、でしたか」
聡雅は怪訝な顔をしたのを、智也はじっと見ていたが、やがて首を振る。
「いいえ、何でもないんです。また放課後にでも」
「まあ、会えたらな」
これは二人の間で暗黙に了解していた事だった。二人は特に出会うために約束したりすることは無い。ただ偶然会えばお互いに会釈を送り、その場限りの会話をする。