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ほのむら伊流
ほのむら伊流
novelistID. 498
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竹草少女

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 口ではそう言うが、聡雅にとってはそれはあまり都合の良い話ではないのだった。
(内鍵つけられたらどうすっかなぁ…)
「まあ、こんなでかい図書館、ほとんど誰も来ないんですけどね」
 聡雅の内心を知ってか知らずか、少年はやや苦笑して話す。
 これには聡雅も同意していた。
「紙質の媒体はもう古いからな…本じゃないとわからない良さもあるが」
「ネットや携帯で文章を読む人間の気持ちが分かりませんよ。僕にとってはそれは好都合ですけどね」
「たしかに。忙しいよりは楽な仕事の方がいくらかマシだ」
「死ぬ直前に『もっと仕事をしてよかった』と言う奴はいませんしね」
「そいつはちっとオーバーだがな。たらたらしてるのが許されるなら、あえてたらたら生きる事にしてる奴の方が賢いというのは一理ある」
(こいつの名前、なんつったかな…)
 名前は知らないが、聡雅はこの少年と妙に気があうのだった。
「それはどうでしょう。そうやって生きてても、やっぱりどこかで僕らは必死になる事を求めているし、そうやって生きたいと願っていると思いますよ」
「自己実現の話か?どうかね。今の俺には何とも言えない」
「自己実現に限った話ではないですが…でも意外ですね。君がそういう言い方をするなんて」
「基本的に俺はいろんなことを保留にする人間だよ。即座に結論を出したってしょうがねえだろう。現実に適応したところで、今の俺達はせいぜい数年が限度だ。すぐ環境なんて変わっちまうし、自分だって変わっちまう」
「学生であるうちはしょうがないですよね。実際適応している人間よりは、適応していない人間の方がはるかに適応力があるのだと思うし」
「そーいう風に周りが思ってくれりゃいいんだけどな…現状俺みたいな人間はやたらと周囲を見下す虚しい輩の一人って事にしかなんねーからな」
「それはお互い辛いトコですね」
「あんまりそーいう上から見てる感じは好きじゃねえんだが、しょうがねえよなぁ…あわねーもんはあわねーんだ」
 ようやく聡雅は自分の記憶が明瞭になっていくのを感じた。
(思い出した、こいつ学年一位の…)
「ところで聡雅君、ボクの名前は思い出してくれましたか?」
 まるでタイミングを見計らったかのように少年が笑う。
 随分と軽薄な笑いだな、と聡雅は思った。
「智也だろ?木枯らしの智也。二つ名みてぇな名前だなと思ったのを今思い出した」
作品名:竹草少女 作家名:ほのむら伊流