竹草少女
流石に彼女は機転が利く女性なだけあって、すぐに感づいたようだ。
「また箸忘れたのね!」
「ごめんなしゃい」
「あーもう、ホラちょっと待っててね」
彼女は自分の箸を持って水道の方へと歩いていく。別に洗わなくてもいいのに、と思ったけれど、彼女はそういうところできっちりしている人なのだ。
「あ…」
その彼女の歩みが、窓の所で止まる。
アタシは不思議に思って彼女の傍に寄ってみた。
「どうしたの?」
「ね、ねえ、あれってうちのクラスの聡雅君よね。それで、隣のあの人は…」
彼女が指し示す先で、旧校舎の方に歩いていく彼氏の姿をアタシは見た。
その彼氏の前に、別の女の子がいて、まるで彼氏はその子についていくようで―――…。
「もしかして告白なのかな!?かな!?」
なんだか少しときめいた顔をしだした彼女の前でアタシはただ曖昧に笑うしかなかったのだが、その反面で鈍い痛みが胸に生じるのを押さえていたのだった。
「錦(にしき)さんが、聡雅に告白…」
「なんかすっごい組み合わせ…でも二人とも“私生活が謎”よね!案外お似合いかもっ」
そう、彼氏がたるそうについていくその相手は、この学園でも問題児と噂されている少女なのだった。純和風の容姿に病的なまでの白い肢体が、綺麗に切りそろえられた黒髪によってよく映えている。ルージュを引いているわけでもないのに赤い口唇。
だがその口から飛び出すのはいつも奇天烈な言葉で、根っからの変人なのだった。
(彼氏のことだから、きっと最後まであの子の言葉に付き合うんでしょうね…)
そのときのアタシは、校舎裏で起こることがなんだか容易に予想できたのだ。