竹草少女
「さて、と」
そうアタシは呟き、新校舎への渡り廊下へと足を進める。
彼氏の事はよく分からないが、しかし自分よりはよっぽどしっかりしているだろうと思う。よくは分からないが、なんだかそういう信用のおける男なのだ、聡雅は。
(いつからこんな関係になったんだろ?)
アタシはいつも不思議だ。そんな風に「大丈夫よね」なんて言って他人に何かを任せられる事なんて今までほとんど無かったような気がする。いつだって自分は最後になって何か尻拭いをしなきゃいけなくて、その事で神経を尖らせているような気分だったような―――…。
そんな事をぼんやり考えながら教室に戻ると、視界に女の子が飛び出てくる。
「あ、流生いたっ!どこ行ってたのよ、もー」
「やほ、ちょっとね」
「ご飯食べちゃうとこだったんだからね」
「ごめんごめん」
この子もそうだ。
彼女は副委員長をやってくれているが、アタシはどうにも肝心な所で彼女を信用していないのだと思う。
「ねえ、最近忙しいの?」
「うん?そりゃあ委員長ですからねえ…」
「そうじゃなくって、ほかに何か用事でもあるんじゃないの?」
「え、用事って?」
だからわたしは、聡雅に対するように彼女に“種”のことを打ち明けられない。
理由なんてない。ただ何となく、言えないのだ。
(ううん、違うわ)
言えないのではない。言わないのだ。
「委員の仕事だけで手ぇいっぱいで、やってらんないわよそんないろいろと」
「ふうん?ま、いいけどさ。ホラこれ!」
「うおおぉ、ありがとぉおおお」
でも副委員長をやってくれている彼女が悪いわけではない。彼女はこうやっていつも私の事をフォローしてくれている―――いまだって自分ではとても出来そうになかった体育祭アンケート調査を綺麗にまとめておいてくれている。彼女の事は大好きだ。アタシは多分、この子がいないと生きていけない。
「涙出てきたぁ」
「おおげさ!」
二人して笑ってしまう。きっと彼女がいるから、まだ委員長を続けていられるのだ。
「じゃあデータはあたしがそろえておいたからね!」
「うん、報告書は書くよ!」
「頑張れっそしてはやくお弁当食べてしまえっ」
ぼーっとしてまったく箸が進んでいなかった事にようやくアタシは気付いた。
そして別の事実に気付く。
「へへへ」
照れ隠しで笑う。
「あ、まさか」