竹草少女
裏校舎はひっそりしていて、コンクリートがひび割れて草が生えてたりなんかしていて―――まるで廃墟だ。実際はまだまだ移動教室で使われていたりするのだが。
錆びて中々開かない倉庫の鍵を、気合を入れて一気に回すと、きりきり音を立てて鍵穴が回転する。古い鍵なので、ドアノブにくっついてしまっているのか。
倉庫鍵を備品担当から半ばひったくるようにして取ってきた流生(ルイ)は、こじ開けたドアから一瞬破壊的な音がしたのを聞いて身体を硬くする。
(もう、閉まらない…かも)
その音の小さな反響が収まるまで彼女は首を縮めて立ちすくんでいた。
「壊してんじゃねえぞ」
「私のせいじゃないもん」
振り返らずとも流生に声の主は分かっている。さっきからずっと視線を感じていたのだ。
「そんなとこでサボッってないで…手伝って…よ、ね、えいっ!!」
構わず倉庫の中に入り、薄汚れていつ使うかも分からぬマットや空気の完全に抜けたボールの入ったゲージなど、手近な空間から押しやっていく。
破壊的な音が倉庫の中を縦横無尽に駆け巡り、一瞬辺りが静寂に包まれる。大量の埃が入り口に殺到し、春の残り風が散らしていく。
やがて中から軽く咳をしながら埃を払って流生(ルイ)が出てくる。その手には小さな赤いカラーコーンが握られている。
パンパンと倉庫の壁面にコーンをたたきつけて、汚れを落とす。
「カラーコーンゲット!」
よっし、と呟いて服の埃を払っていると、突然背中を思い切り叩かれて、うっと息が詰まる。
「ちょっと…?いたっ、いたいいたい、いたいしっ」
「ひでえなお前、プリンみたいになってるわ」
「もういいもういい!」
なおも伸びてくる手を打ち払い、彼女はカラーコーンを放り投げて自分で埃を払う。
ひゃあああ、っと頭をぼさぼさと払うと、むっと大気が埃にまみれていく。
頭頂部は真っ白だったのだろうか。黒い彼女の髪が、それこそプリンのようにくすんだ白に染まるくらい。
「なあ…俺はお前が“忙しい”っつーから、今は代わりに見てやってるけどよ。後でちゃんと自分で見に行けよ?」
振り返ると、宙を舞ったカラーコーンをキャッチして「汚ねぇ」と顔をしかめる短髪の少年の姿があった。
「分かってるよ…忙しいんだからしょうがないでしょ。サボってるわけじゃないんですからねー」