竹草少女
あんたこそ準備はちゃんとやってんの、と切り返す。
「俺はもう終わったの」
少年は、生まれてこの方ぱっちり開いたことなんてないです、とでも言いたげな重そうな瞼を引っさげて、ぼそっと返す。
きょとん、と彼女は少年を見つめる。“聡雅”(サトマ)と名札のついた体育着袋が彼の手元で揺れている。
「あんたたしかグラウンドのライン担当でしょ?一番時間かかる仕事じゃない、もう終わったの?」
「余裕。つうか他の奴らの仕事がたらたらしてて遅すぎて苛々したから、プラン・シートひったくって俺だけで引いた。今頃ライン担当のやつらのは自室でダラダラしてんじゃねえの」
「う…目に浮かぶようです」
恐らく彼が先ほどの現場にいれば、あまりの周囲の動きの悪さに血管を浮かべているのだろう。実際人手は必要だが、単純に人間が増えてもすぐに力に変換できるとは限らないわけで…―――。
「さっき“水やりながら”見てたんだけどよ、お前らもっと要領良く出来ないの?ちんたらしてる奴らをもっと使えよ」
彼女は少しぶすっとしてしまう。
「それが出来たら苦労しないんですって」
むしろ少年に全部自分の責任を放り投げてしまいたいくらいだった。
うんざりするように視線を落とすと、ふと彼が持ってるものに流生の目が留まる。
体育着袋のサイドポケットに、無造作にハサミが突っ込まれている。よく見れば反対の手には、似合わないがジョウロを持っている。
「もしかして…そんなに成長したの?」
「お前実は、というかやっぱり見に行ってないだろ?」
「い、いや、そんなことは…だってもうハサミ使わなきゃいけないくらいになったなんてさっ」
「まだ芽が出ただけだよ、ていうか“剪定”するならこんなハサミ使わないし。そもそも“アレ”がどういう風に成長するか俺は知らないんだぞ?」
「で、ですよねぇ、ははは」
少し動揺してしまった。
「これは途中で拾ったんだ。備品運ぶ途中で誰かが落としたんだろ」
ほれ、と言って少年は流生にはさみを押し付ける。どうせ戻るなら持っていけ、という事だろう。
仕方ないので受け取る。なんだか悔しい。
「まだ誰にもばれてないんでしょうね?」
なんでもいいのであらぬ因縁を吹っかけてみる。
「ねえよ。ていうか見た目ただの植木鉢だろうが」
アッサリ切り捨てられる。実際その通りなのだった。