竹草少女
「やっぱり植物だったじゃない」
「植物じゃないなんていつ言ったんだよ」
「だって“卵”かもって!」
「かも、だろ。俺はただどっちでもいいっつったんだ」
春の終わり、夏へと進む最後の工程。
五月の終わりは、連休明けの生徒達のいまだかったるそうな顔で埋め尽くされていた。
季節の変わり目に特有の吹き荒れる風も徐々に納まり、停滞した空気が厚さを溜め込む季節の入り口にきている。
「そのジョウロ、どこから持ってきたのよ」
「学校の備品かなんかだろ」
日替わりで違うジョウロを手にしている聡雅を流生が見咎める。
「あー!そーいうのってね、部活とか学校行事運営する側からすると、いざってときにすっごい迷惑なのよ」
「戻せばいいんだろ。じゃあお前やれよ」
「それは…無理」
その言葉を聴いて聡雅はじろりと流生を睨む。
「お前、なんだかんだ言って三日坊主だったよな…文字通り最初の三日は欠かさず見に来てた」
最初の三日、という部分を強調する。流生は中途半端な笑いを見せて誤魔化すしかない。
この少年の前だと流生はこのような笑いばっかりしているのだが、その事を流生はあまり嫌じゃないと感じていた。
聡雅と流生はお互いに―――聡雅からすれば「いつの間にか」だったが―――この植物を一緒に育てようという事で、この秘密の部屋に毎日集まる事を日課にすると約束しあっていた。
朝と昼の二回…のはずだったが、流生はまったく来れておらず、むしろ巻き込まれた形の聡雅が定期的に訪れては世話をして帰るという不思議な関係になっていた。
あの謎の飛来物―――(流生は「“植物の種”だ」と主張する地球外生命体)と出会ってから、早くも一週間が経っていた。
「だって忙しいんだもん」
「忙しい忙しいっていつも言ってるなあお前…」
「ほんとよ」
ほんとかねえ、と呟きながら少年はジョウロを脇に置いて、椅子に座る。
これではまるで新婚の妻が夫がなかなか帰ってこないのを嘆いているようである。
なんだか流生はおかしくなってきてしまう。
「芽、出たねえ」
本を読み始めた聡雅の隣で、流生は植木鉢をじんまりとした気持ちで見ていた。
うららかな風が白いカーテンをまくり上げて、小さな部屋の中へと入り込む。この部屋はどういう構造なのか、とても風通しがよく作られているようだ。
「いつ出たのかなぁ…」
「…」