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ほのむら伊流
ほのむら伊流
novelistID. 498
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竹草少女

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 日がだいぶ傾きかけてきていた。二人は旧校舎と新校舎の間にある、渡り橋の下の自転車置き場へと足を進めていた。
「自転車(オートサイクル)なのか」
 聡雅が醒めた瞳で流生の姿を見ている。彼女は自転車のチェーンを外す。
 エンジンをかけると小さく排気孔が揺れる。
「家までね。自分で買ったのよ?」
 オート・サイクルにまたがると、にっこりと笑って手を差し出す。
「寮まで荷物持ってあげる、てか乗せてあげる」
「ホントに?大丈夫かよ…」
 何度目かの渋い顔をしながら聡雅が後部座席に乗る。乗りなれてないのか、しきりに身体を揺すっている。
「ちゃんと乗った?」
「おう」
「メットないけどいいよね」
「おい…」
 不満げな顔をしているのでゴーグルを外して渡してやる。
「何の意味があるんだよ」
「気分よ、気分」
 主にお前の気分だろ、という言葉を無視して、彼女はクラッチに力を入れる。
 聡雅がくぐもった悲鳴を上げた気がして、彼女は笑う。
 既に時刻は遅い。
 広大な学園の敷地の坂を、少女と少年を乗せたオート・サイクルが下っていった。
 同乗者はヘルメットなしだったが、どうせ敷地内ではその必要はないのだ。彼女は気にせずスピードを上げた。
「ねえ!あれはあたしとあんたの内緒だからね!」
 よく聞き取れなかったのか、聡雅が背後で声を上げる。
 だが風が強くて聞き取れない。
「あの部屋も、あの植木鉢も、あんたとあたしの内緒!」
 声を上げて彼女は笑う。もう彼氏の声はしなかった。
 バイパスへと一気に速度を上げて乗り込む。腰に回された手が強くなる。少し、痛い。
 その痛みが何故だかうれしくて、彼女はどんどんスピードを上げていった。
作品名:竹草少女 作家名:ほのむら伊流