竹草少女
校舎の外からだと図書館の位置には七つの窓があるように見えるのだが、実際に図書館に入ってみると、どうしても窓は六つしか見つけられない―――その七番目の窓が、今彼女の目の前にある。
「“秘密の小部屋”(シークレット・ルーム)ってヤツかな。日当たりもいいし、風通しもいい。湿気も適度にあるし、何より暗くて明るいだろ?」
そういいながら、彼は中に備えてあるレトロな照明やら暗幕やらをいじってみせる。
そう、ここは図書室の本棚によって仕切られて隠された、孤立した部屋―――それ自体が凹んだ四方の本棚に囲まれて、扉にあたる本棚で表からは見えない―――なのだった。
「こんなところがあるなんて…」
「この学校、もしかしたらもっとこういう場所があるのかもしれないな。俺は深く探した事はないが」
流生は私生活が謎、と言われる男の一面を見た気がした。きっと彼は休日もよくここに来ているに違いない。
さっそく植木鉢を置いてみる。日当たりのいいところを選んだ。
「ここならきっと、よく育つよねえ」
種を取り出すと、さきほどより心なしか温もりが強くなっている気がした。
そっと土の上に乗せてやる。
「土はかぶせなくていいんじゃないか。根付いたら土をかぶせてやれよ」
「そうだね」
聡雅の言葉に頷き、流生は植木鉢の上に乗った種を見つめる。
「卵だったらどうする?」
「またその話。もういいですから」
「そうは言うがな…うおっ」
「なによ…きゃっ」
少年と少女が驚いた声を上げる前で、土を掴んだ種が自ら穴を掘って植木鉢の中に沈んでいく。
腐葉土や堆肥やらが混ざった土が跳ね飛び、流生は顔を腕で覆う。
「わわっ」
「き、気持ち悪ぃ…」
一部始終を眺めていた聡雅が呟く。
「種とか卵ってのはジッとしてるからいいんだよ…こんな風に動いちゃいけねえ」
「い、いいじゃない、きっとお転婆さんなのよ」
「お前面白いな」
「そう思うならもっと笑った顔なさいよ」
二人ともどこかぞっとした顔でその場を立ち去る