竹草少女
図書室は旧校舎の最上階―――ちょうど彼らが利用していた校内菜園の頭上―――にあるのだった。
中庭から通ずる階段を二人は土足で登っていく。
「ちょ、ちょっと…」
やや抵抗する流生を半ば押すようにして案内した聡雅。
彼はなんともない顔で既に施錠された図書室の扉を前にしてノブをしきりに回し始めていた。
「ねー。もう閉まっちゃってるんじゃないの」
扉の前に立つ聡雅を、後ろで手を組みながら流生は眺めていた。
聡雅はそんな流生の方を一瞥すらしない。
「大丈夫だよ」
「何が大丈夫なのよ」
「いいから待ってろ」
そう言った瞬間、変な音がしてドアノブが回り、扉が開く。
「ほらな、大丈夫だろ」
「なんかすっごく…やっちゃいけない仕方で開けた気がするんですけど」
明らかにノブの回し方が変だと感じた。
「鍵をノブに引っ掛けてまわす方法があるんだよ」
「空き巣とかやったことあるの?」
「ねえよ。使えるのはこういう古い扉だけ」
ぶすっとした顔で流生を一瞥すると、聡雅はどんどん奥へと進んでいってしまう。流生は黙ってついていくしかない。
「はぁ、重たい…」
堆肥の時の比ではない重量に膨らんだ植木鉢を持って、なんとか聡雅のいるところまでたどり着いた流生は、本棚をおもむろに叩きはじめた聡雅をいぶかしげに見つめた。
「なにしてんの」
「あった、これだ」
聡雅は短くさがってろ、と言った後、本棚の枠をつかんで思い切り前方に引き出した。
木が擦れる、あまり心地よくない音が辺りを揺らす。
途端に、がこん、と何かがかみ合ったような音がして、不協和音を奏でていた本棚が嘘のように前方に滑り出す。
「この床板、板と板が不自然に開いてるだろ。これ、レールになってんの」
そう言うと、聡雅は本棚がズレて出来た空間に身を滑らす。
手だけが出てきて手招きをするので、恐る恐る流生も中に入ってみる。
「わっ」
「お前のリアクションも俺と五十歩百歩じゃねえか」
呆れた声を出す聡雅だったが、流生の方は、こちらはこちらで呆気に取られていたのだ。
「これってもしかして…噂の“七番目の窓”!?」
七不思議というのは、どこの学校にでもよくある話だったが、これはそのひとつなのだった。