竹草少女
だからそのとき口が“滑って”しまったのは仕方ないと言えたし、彼女はそのとき聡雅に話すのが流れとして自然に思えたのだ。
「何を育てんの?」
「地球外生命体」
「…はあ?」
文字通り“ぽかん”だ。
流生はおかしくなってしまう。
(全然怖くなんかないじゃん!)
「へへへ、意味分かんないでしょ」
「さっぱり分からん…それはなんかの例えなのか?」
あまりに真面目な顔をして聞いてくるもので、彼女はこそばゆくなってしまう。下手に笑われたり「馬鹿にしてんのか?」と怒られるよりも、大真面目な態度を取られる事の方がある意味でやりづらい。
「見してあげよっか?」
「おう」
窺うように目線を送ると、興味が湧いたのか彼が近づいてくる。
「でも内緒だよ」
「…何で?」
「なんでも!」
流生の瞳が細められたのを少し首を傾げるようにして彼氏は見たが、それでも黙って頷く。
「ふーん…了解」
あっさり根を上げて流生のペースに乗ってくる。深く追求する事も無い。
満足したように頷いた彼女はごそごそと通学鞄の中を漁り、いつの間にか奥の方へと潜り込んでしまった“種”を取り出す。
「ほら!地球外生命体!」
目の前に差し出してやる。一瞬彼氏は目を丸くしたが―――滅多に開かない瞼が一瞬ぱっちり開いたのを彼女はしかと見た―――すぐにいつもの表情に戻る。
「…」
「…」
彼氏の反応が薄いため、すこし彼女は拍子抜けする。
「…?」
「なによ、なんか言いたい事でもあんの」
時間にして十数秒。短いが気持ちが“ハイ”な彼女にはあまりに長い時間―――沈黙が流れて、流生の方がたまらず口を開いた。
彼氏は申し訳なさそうに言葉を返す。
「つまりこれがお前が育てたい“地球外生命体”?」
「そうよ」
「…ふーん」
「なにそれ、せっかく人が見せてあげたのに…」
流生はむっとしてしまう。
「つまんない男ね」
「いやなんつーか、身も蓋もなさ過ぎて驚く暇もなかったっつーか」
聡雅は後頭部をがりがり掻きながら困ったような顔をする。
「造り物とかじゃなくて?」
「違うもん!ほら、触ってみなよ」
ずい、と差し出された“種”を、やや疑り深い目で見つめて受け取る聡雅。
「うぉおおおっ?」
受け取った瞬間びくっと種が奮え、聡雅は慌てて流生に種を押し返す。
「ほらね?」