竹草少女
人間というのは他者によって規定されている部分があるが、言うなれば彼の場合、その規定を徹底的に牽制しているとも言えた。「お前に俺の何が見えるんだ」とでも問いかけているようで、その他者に対する姿勢や態度が、彼を“怖い”と感じさせる理由なのだった。
今もまた彼は何の遠慮もなく、しかし馴れ馴れしいという感じもなく、平然と彼女に接触をしてきた。決して他者を畏れているわけではなく、行動は普通そのもので気軽に話しかければ気軽に答え、つるんでくればじゃれ返し、人並みに話したり相槌を打ったりはするが―――そのことごとくに彼がどこか線を引いてるような印象を感じずにはいられないのだった。
(今もまた、こうやってじーっと私の事を見つめてる…)
それは五月姫に見られているときのようなドキドキする感じとはまた別の、人を不安にするような視線だ。
「シャベル」
「あっ、ごめん」
徐々に警戒心を強めていた彼女は、突如手を出された事の意味に最初は気付けなかった。慌てて手に持っていたシャベルを渡すと、彼はそれを横の水道で洗い出す。
横には同じように洗い待ちと見受ける雑多な用具が無造作に置かれている。見れば彼は清掃用の軍手をしていて、今まさに何か作業を終えてきたところだったらしい。
「ただの掃除だよ。センコーに頼まれたんで、旧校舎の周りを掃除してたんだ」
これで課外活動項目(ボランティア)の単位もらえるんだぜ、と彼は続ける。しかしどうにも軽薄さと気だるさを思わせるような表情や態度が、どうしても積極的で利他的な良い生徒、という感想を持ちづらくしている。
それでも彼女は少し彼の意外な一面を見たような気がして、ただ「へえぇ…」と頷く。やはりどうしても彼は、冗談ですらそういう事をしそうな人間には見えないのだ。
(あ、そうだ…)
少し気持ちが緩くなった彼女は、ちょっとした思い付きで彼に聞いてみることにした。
「植物を育てるときってさ、どんな土を使うのかなあ?」
彼氏が「ん?」という表情をした。その表情がとても人間的で、普段「怖い」とか言われているような人間のそれとは思えなかったので、彼女はどこか安心してしまったのだ。
それに彼女はとても気分が良く、浮かれていた。
「俺は専攻じゃねえけど、そういうのって育てるものによるんじゃねえの。大抵は赤いのと軽石かなんかと腐葉土を混ぜたヤツだとは思うが」