竹草少女
渋い顔をしながら植木鉢の方へ移していく。
そのときだった―――背後から気だるそうでありながらのんびり落ち着いた低質のテイストの声が、彼女の鼓膜を揺らした。
「堆肥ってのはそんなに使わねえんじゃねえか」
「わっ」
慌ててシャベルを取り落としそうになる。
「基本的に肥料よりもただの土の方が割合は高いって聞いた気がすんぞ。まあ俺は詳しくないから知らねえが」
振り返ると、Yシャツ姿で腕をまくった、重そうな瞼を引っさげた短髪の少年が立っていた。
いわゆる“チャラ男”には見えないが、かといってスポーツ系にも見えない。髪型もスポーツ刈り程短くもないが、しかし長いのかと言うとこれは確実に違う。ツンツンした丸い頭だ。
それでも彼女が一瞬不良を疑ったのは、彼の左の耳に大きく開いたピアスの穴を見つけたからである。縦に三つも空いていて、それが彼女にほんの少しの警戒心を作った。
(ていうか髪緑だしっ)
それは陽光に当たったときに見える色で、以前に散々髪の色をいじった事の証拠である。黒染めで隠しているが、陽光に当たって変色して見えるのだ。
横殴りの陽光に照らされて、片側の髪が緑がかって見える、巨大ピアス穴を三つも開けた少年―――(間違いなく不良だ!)
陽光に照らされて、Yシャツの下に着ているクルーネックのTシャツが、少年の首元で紺色に光っている。
彼女はこの少年を知っていたが、少年も彼女を知っているようだった。
「ええと…聡雅、君?」
便宜上敬称はしっかりつけておく。
(この人、ちょっと怖いのよね…)
二人は同じ学年で同じクラスなのだった。取得している単位科目が異なるため、ホームルーム以外では滅多に顔を合わせないのだが、それでもやはり同じ教室にいることには変わりない。
孤独というわけではないのだが、どこか決定的な所で他人と交わらない姿は、彼の印象を作りにくくしていた。結果、流生の周囲は彼のことを“よく分からん”“謎。特に私生活が”などと評しているのだった。